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 外は清々しいほどの青い空。
 眩しく地上を照らす陽の光。
 人間や動物、妖怪までもが日光浴を楽しめるような晴天。
 と、私の使い魔である小悪魔は無邪気に言った。
 だけど外に出る利点が見いだせない今は、そんなこと微塵も興味がなかった。
 素晴らしい晴天らしいが、生憎この大図書館には窓という外界と関係を持っている場所は一つもない。
 唯一外界と関係を持っている場所と言えば、この図書館に入れる正面入口ぐらいだが、その入口周辺にも窓は少ない。
 陽に弱い吸血鬼の友の館に繋がっているから仕方がないと言えば、仕方がない。
 その友も、今は就寝中。
 彼女にとって陽の高い今の時間帯は、私たちで言う夜中に当たる。
 吸血鬼にとって陽の光は命を蝕む物である。
 だから彼女が起きてくるのはいつも夜。
 月が踊る闇夜の中。
 そのせいで希に、彼女のわがままで夜中に叩き起こされることもある。
 そんな友が今ぐっすり寝ている館、彼女が好む血のように真っ赤な館。
 紅魔館。
 その紅魔館内にある私の図書館。
 無限とも言える本の山に囲まれるのは至福の時でもある。
 そんな静かな場所で、有りに余った寿命を最大限に使って読書に勤しむ。
 私にとってはまさに天国と言える場所。
 知識はいくらあっても困らない。
 いざという時には役立つし、応用を利かせれば無限の可能性を秘めている。
 世界中の、この世の様々な知識が手に入る。
 感情なども色々。
 怒りや悲しみ、恨み。
 そして恋愛感情も。
 本だけで全てを理解できる。
 そう考えると面白いじゃない。
 だから私は知識を貯めることは好きである。
 静かに読めれば問題は皆無である。
 しかし、そんなに世の中甘くはなかった。
「ういーすっ」
 水滴が地面に落ちる音さえ、うるさく響きそうな静寂にまったく似使わないガサツな声が響く。
 その声はよく聞く声であり、この静寂の中でわざわざ声を張り上げるなんて一人しかいない。
 私は横目で声がするほうに視線を移動させる。
 古びた革の背表紙や、新品の白紙の背表紙の本が綺麗に木目の本棚に並べられる図書館の中で、異様にも目立つ白と黒。
 黒いとんがり帽子に、炭のような真っ黒なスカート。
 そのスカートに雪のような白いエプロンをかける。
 お笑いとしか言えないほどの超古代の魔女の格好をしている女性。
 腰まで伸びた金髪に、幼い顔つきでやんちゃそうな子供のように見える。
 悪魔や妖精しかいないこの館の中を我が物顔で歩く人間。
 最近この図書館に顔を出すようになってきた、私の同業者である魔法使い、霧雨魔理沙が大きな風呂敷を抱えて堂々と正面から入ってきた。
「よう、パチュリー! 一人か?」
「小悪魔がいるわよ」
「あいつはお前の付属品でいつも一緒だろ。あいつは数に合わせないで、一人か?」
「それなら私一人よ」
「そうか……予定通りだな」
「……?」
 ずかずかと図書館に侵入して一人で勝手に納得している魔理沙。
 私は貴女を招待したつもりはないのだけど。
 と皮肉を言っても彼女は、まるで聞く耳を持たない。
 しかし、本以外に何か興味を示している魔理沙はどうせろくなことを考えない。
 まぁいつもとんでもない言動をする彼女の行動を考えても、徒労に終わることが多いので止めておこう。
 恐らくあの風呂敷の中身を見れば全てが判るだろう。
 魔理沙はまだ風呂敷を広げるつもりはないようだ。
 私はそわそわ周囲を見回している魔理沙を無視して、読書を続ける。
 魔理沙と初めて会ったのは、幻想郷が紅い霧に包まれた紅霧異変の時だった。
 異変を解決しようとこの紅魔館にやってきたこの白黒と、神社の紅白巫女。
 その時に私が相手をしたのが白黒の彼女。
 結局力押しで負けてしまったが、スペルカード方式でなければ私が負けることはなかった。
 異変が解決された後も、この図書館の膨大な書物に興味を惹かれたのかちょくちょくやってくるようになった。
 私の邪魔さえしなければ来るのは一向に構わなかった。
 が、邪魔をしてきた。
 壁を破壊して図書館に進入。
 書物を強奪、窃盗。
 挙げ句の果てには捕まえようとしてきた私を力押しで排除。
 その他諸々の悪行を繰り返しているのだ。
 もはや書物を傷つける鼠のような存在。
 有害動物、害虫。
 まぁ盗まれた本は希に返還されることもされるが、雀の涙程度である。
 ある程度盗まれたら咲夜に頼んで取り戻してきてもらっている。
 そして次の日には、なぜかそれに対して魔理沙が文句を言ってきて、また本を盗んでいく理不尽な状況。
 ある程度のつき合いになってくると、根は悪い奴じゃないと判るが本を盗むのは良くはないと思うわ。
 嘘のつけない鉄砲玉のような人間。
 一応彼女も、人間ではあるが部類としては魔法使いである。
 同じ知識で討論できるのは私にとって新しい出来事。
 まぁよろしくない状況だが、新しくできた友である。
 いや、これで良かったのかもしれない。
 魔理沙と知り合わなかったら、彼女に出会えなかったのだから。
 彼女とは、魔理沙が今待っていると思われる者。
 そして、私も待っている者。
 様々な感情は本で全て理解していたつもりだった。
 だけど彼女に出会ったことで、自分の知識がまだまだだということを知った。
 彼女が、私に新しいことを教えてくれた。
 大切な友の一人。
 その時、図書館内に入口のドアが、きぃ、と軋みながら開く音が耳に入る。
 私と魔理沙は入口がある方向へと視線をやる。
 入口は本棚の向こう側で、誰が入ってきたか判らない。
 しかし、進入者なら音をたててドアを開かないし、小悪魔が気づくはずである。
 だけど小悪魔は何も言わず、本の整理をいそいそとやっているようだ。
 咲夜ならもう既に私の横にいるはずだし、館の主も魔理沙と同じようにやかましく入ってくるはず。
 こんな静かに入ってくるのは一人しか思い当たらない。
 私や魔理沙が待ちに待っていた者。
 魔理沙も気づいたらしく、目を光らせてそわそわしている。
 きっと私も彼女と同じような気持ちになっているのだろうが、そんなみっともない姿は見せられない。
 冷静に、平静を装って。
「パチュリー」
 鈴のように透き通った高音が私の名前を呼ぶ。
 間違いない。彼女だ。
 その声で私はより一層体が硬直する。
「こっ……」
「おーい、こっちだぜ!」
 私が滅多に出さない声を張り上げようとした時、魔理沙が割り込むように先ほどの声に向かって返答する。
 なんでアンタが返すのよ!
 と、ここで怒鳴っても何も良いことがないので、不満を押し込めて浮かび上がった腰を再び椅子に戻す。
 後で覚えていなさいよ……。
 魔理沙が返答をしてからほんの少し。
 壁になっている本棚の横から誰かが顔を出す。
 空のように真っ青なロングスカートの腰にピンク色のリボンを巻き、白いケープが変に可愛らしく見える。
 人形のように細い体つきに、肩まで伸ばした輝くような金髪。そして新鮮な果実のように真っ赤なカチューシャ。
 丸みを帯び、人形のようにしっかりと可愛らしい顔。
 アクアブルーのような双眼が私たちを見据える。
「やっぱり魔理沙もいたのね」
 先ほど聞こえた鈴のような声。
「お! なんで私がいることが判ったんだ!? まさか私がここにいると知って……」
「そんなわけないでしょ。さっき叫んでいたじゃない」
 照れて頭を掻いている魔理沙を軽く流しながら、彼女は私に近寄ってくる。
 そして隣に立つと、彼女は手に持っていた古い洋書を差し出す。
「はい、ありがとう」
「……どうだった?」
「ええ、とても面白い内容だったわ」
 彼女はなんの屈託もない笑顔を見せる。
 私にはそんな彼女の笑顔は眩しすぎた。
 あまり直視していると頬が紅潮してきてしまう。
 私はその前に彼女から本を受け取るとテーブルの空いている箇所に置く。
 満月のように美しく、眩しい笑顔を見せる彼女。
 私と、魔理沙と、そして彼女は同じ魔法使い。
 魔法使い仲間であり、私に本では体験できないことを教えてくれた友。
 人形遣い、アリス・マーガトロイドは私に向かって笑顔を向けてくれる。




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