暗い、暗い闇の中。
 光も無ければ風も無い、何も無い世界。
 他の妖怪兎たちの姿も見えなければ永琳様や姫様の姿も見えない。
 誰も居ない、私だけの寂しい世界。
 誰か居ないの、私はここだよ。
 声に出そうとしても声が響いているとは思えない感覚。
 ただ唇が動いているだけの無意味なこと。
 寂しい、寂しい、涙が出てきそうだ。
 それでも誰も現れない、私の闇の世界。
 歩こうとしても地に足がついているのか判らない。
 浮いているわけでも、拘束されているわけでもない。
 感情という感情が全て飲み込まれそうなほどの濃い闇の世界。
 誰か私はここだよ、見つけてお願い、私を見つけて。
 四方八方が闇の世界。
 何処を見ても、黒、黒、黒の世界。
 ……あ。
 だけど、その狂いそうな闇の世界で二点の紅い光。
 闇の世界で紅い光は不気味な存在かもしれないが、私にとってはいつも見ている美しい紅い光。
 その紅い光を見つめるとその光はゆっくりと形が現れてきた。
 私のように癖毛ではなく、美しいほど流れるような髪、そして頭の頂点から二本の長い耳を生やした女性。
 私には持っていない全てを持っている月兎。
 鈴仙・優曇華院・イナバ様が闇の世界の中で異様な存在感を放っていた。
「――てゐ」
 鈴仙様が私の名前を呼んだ。
 彼女がゆっくりと私へと近づいてきた。
 鈴仙様が現れた瞬間から私の中には安心感のような感覚が駆け巡っている。
「もう大丈夫だからね、てゐ」
 とても優しい声を発しながら、鈴仙様は私の頭を撫でてくれた。
 笑っている、鈴仙様が嬉しそうに私の頭を撫でて笑っている。
 鈴仙様……。




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