まったく舗装されていないでこぼこの山道。雑草や野花が道の所々に生え、道を作るように木々が生い茂る。
 空は無数の木々により、覆いつくされ昼なのか夜なのかも解らない薄暗い空間。
 まるでこの世の終わりのように静かに木々が揺れる音が響く。
 その闇を歩く二つの馬。
 一つの馬には体躯が分からないほど全身を覆った白く煌く胸部や両肩など様々な箇所に十字架の記号が施された鋼鉄の鎧を装備した若い顔つきの男性がガチャガチャと防具を鳴らしながら乗馬していた。
 その後ろを歩く馬には小柄で華奢な体躯をし、真っ白な僧侶服を着込むだけの簡素な姿の童顔の少年が乗馬していた。その馬には必要最低限の旅道具が二人分積まれている。
 それぞれの馬は山道を歩きにくそうに進む。
 童顔の少年――アルフレードが唯一得意の乗馬能力で荒れた山道を歩く。
「アル、もうすぐで到着するぞ」
 アルの前を歩く鎧を纏う兄――バルトロメーウスが正面を向きながら淡白に言う。
「はい、バルト兄さん」
 二人はセトゥリュシスの五大大国の一つ、ジュラルヴィ王国内に存在する魔術ギルド協会に存在する聖職協会に所属する聖職者である。
 聖職協会は聖なる力を用いて人を癒し、魔を祓う力を持つ集団で構成された組織である。
 兄であるバルトはシュラヴィレス家の長兄である。協会内では騎士の役職に就き、優れた才能と技術を持つ百年に一人の逸材、少し無愛想であるが対人関係はなんとかなっている。アルが尊敬する人間の一人である。
 そのアルはシュラヴィレス家の三男である。しかし、兄とは違い運動神経は無く、聖なる力も未熟であるため役職にも就けず未だに役職は初期の聖職者のままだ。唯一得意であるのが乗馬技術だけが他の人間より旨いだけである。
 二人は現在、協会に届けられた依頼をこなすために山岳地帯に存在する田舎村へと向かっている。
 今回の依頼内容の難易度はそこまで高くなく、出来損ないと蔑まされて依頼を行えないアルを思って兄であるバルトがペアでの依頼を行うことになった。協会側も優秀な騎士であるバルトと今回の任務の難易度の低さを合わせて許可をした。
 アルにとっては初の依頼であり、ガチガチに緊張している。
 しばらくすると木々の道の先に光が見えてきた。
 馬は蹄を鳴らして光の先に行く。
 そこには黄昏の光が木製の家屋を廃墟のように照らす、村には人の姿は無く不気味に静まり返る。どこからか烏の鳴き声が静かに響く。
 そこは人が住んでいる気配は無く、廃墟になったばかりの村のようだ。
「うわ…………」
 光景にアルが声を漏らす。
 それにかまわずバルトが馬を進め、アルも後を追う。
 村を囲む木柵を超えると人間の視線を感じる。
 一つや二つではない。
 無数の、無数の両眼がアルとバルトの全身を舐めるように見ていた。
 その視線に悪寒を感じながら辺りを、キョロキョロと見回す。
「アル、落ち着け」
 挙動不審なアルを咎めるバルト。
「すみません……」
 項垂れていると中央広場のように円形の広場の中央に威風堂々とした騎士の銅像が飾られていた。
 その銅像の前に顔に皺が無数にある初老の男性を先頭に十人ほどの村人が並んでいた。どの村人も顔に生気を感じられない。
「……ようこそ、いらっしゃいました。わざわざこんな山奥にご側路してもらいありがとうございます。私はこの村の村長を務めているノルベルトと申します」
 初老の男性が前へ一歩出る。
 バルトは馬を降りる、重たそうな鎧を纏った全身は、ドスンと音を響かせる。
「聖職協会から来ました騎士のバルトロメーウス・ヴィ・シュラヴィレスです。そしてこちらが聖職者のアルフレード・ド・シュラヴィレスです」
 アルも馬から降り、兄へと近づきノルベルトに向かって礼をする。
「……これは、また御若い方々ですな」
 ノルベルトが不満そうな表情を作りながら言う。
 たしかに二人の年齢を足しても四十歳を超えていない若造だ。それに比べて村人は四十歳以上の人ばかりだ。そんな若造二人に何ができるのだろうと思っているのだろう。
 しかしご安心を、兄であるバルトは並の術者の何倍も強いので大丈夫だ。
「まあ、いいです。早速ですが依頼のモノ≠見ていただきたい」
 ため息をしながらノルベルトは後方に居る三人の村人を連れて歩き出した。アルとバルトは馬を村人に任せてノルベルトの後を追う。
 路面は山道とは違い、ある程度は整備されているが所々石が剥き出しになっていたりと歩きにくい。
 村の風景はまったく同じ木造家屋が幾つも存在し、古びた井戸や枯れ朽ちた木々が様々な場所にあった。
 村の外からは人の姿を発見できなかったが奥に進むと、ぽつぽつとだが人の姿が確認できる。
 だがどの村人も生気の感じられない表情をしている。
 黄昏時もだんだんと進み、周囲は暗くなってきた空に月が輝いてきた。
 しばらく歩くと村を囲む木柵を越えた先に建つ一軒の木造家屋が見えた。まるでその家屋だけが違う物のように、ぽつんと村の隅に建っていた。
「あれが、依頼のモノ≠ェある家です」
 ノルベルトが冷たい声で家屋を睨みながら言う。
 その家屋は村の家屋と同じなのだが、何か雰囲気が違う。何の気配だろうか、アルが初めて感じる感覚である。
 古びた木の扉の前に立ちノルベルトがノックすると家の中から、ぱたぱたと走る音がする。少しして扉が音を鳴らしながら開く。
「あれ? 村長様、どうかしましたか? それにそちらの方々は?」
 流れるように美しい金髪に透き通るように蒼い眼の少女が扉を開けてノルベルトへと質問をした。
「イルゼや。この人たちはエマを助けるために来てくださったのじゃ」
「本当ですか!? 貴方様方がエマを助けてくださるのですか!?」
 イルゼと呼ばれた少女は、ノルベルトの言葉を聞いて十字が刻まれた鎧を纏ったバルトと僧侶服を着るアルを歓喜の眼差しで交互に見つめる。
「イルゼ、済まないがエマをこの方々に会わせてやっておくれ」
「はい、判りました」
 イルゼはお辞儀をすると家の奥へと案内をする。
 家内は木製の真新しいテーブルがあり、その上には部屋を照らす古びたランプが、ぽつんと置かれている。テーブルを挟むように椅子が二つあり、一つには今まで人が座っていたようだ。
 入口の右側には綺麗に整えられている台所と裏口と思われる扉、左側には扉が二つのみ存在した。
 イルザはその内の一つの扉、奥の扉の前へと行く。アルたちも後に続く、その後ろからはノルベルトが付いてくる。他の村人は家の前で待っているようだ、いや待っているというよりは入りたくない感じだ。
 コンコンとイルゼが扉をノックする。
「エマ、入るよ」
 きぃと軋ませて扉が開く。
 扉の先には不思議な光景が広がっていた。
 部屋の中には衣装箪笥が一つに本がぎっしりと詰まった本棚、簡素な机と椅子、机の上にはランプが置いてあるが火は灯っていない。
 しかし、部屋は眩しいほど明るかった。
 光は窓やランプから光っていなかった。
 部屋の奥、少し小さ目のベッドがあり、ベッドを中心に床には不思議な文字が浮かぶ円形が描かれていた。
 その円形からは眩しいほど真っ白な光を放っていた。
 そして、ベッドには少女が眠っていた。
 イルゼと瓜二つの流れるように美しい金髪に透き通るように蒼い眼の少女が静かに眠りについていた。
「エマ、やっと前みたいに暮らせるよ」
 イルザがベッドに近づく、床に描かれた円形の前に立つ。
「あれが……今回の依頼ですか」
 静かにバルトがノルベルトに確認するように聞く。
 ノルベルトは元々深い皺をさらに深くして頷く。
 ある日、村の娘が突然倒れ、自宅へと運び看病をしていたら次の日、謎の円形の絵が現れたそうだ。さらに村人がその円形の絵に足を踏み入れると謎の光と共に、その村人は弾き飛ばされたらしい。様々なことを試したが全て弾かれ、お手上げ状態になった。村人は次第に不安と恐怖に包まれ、「悪魔の子!」と呼び始めた。村長であるノルベルトは村人の不安を解消するために協会へと依頼を出したのである。
 今回の依頼内容は、この謎の円形の絵をなんとかするのが依頼内容である。
「…………」
 バルトは無言でベッドへと近づく。イルゼは無言の気迫に押されて後ろに下がる。バルトが、スッと右腕を前に出す。
 すると、バチッと電撃が走る音と共にバルトの右腕が後ろへと弾き飛ばされた。
「に、兄さん! 大丈夫ですか!?」
 アルが慌てて駆け寄る。バルトは気にせずベッドに眠る少女を見続ける。
「……ふむ、防護結界だな。それもかなり高位の結界だ」
「え? なんでそんな結界がこんな子に?」
「さあな、どの道これを解くのだから起きたこの子にでも聞いてみればいい」
「そうですが……そう言えばこの魔法陣は始めてみる種類ですね」
 アルが魔法陣の文字へと人差し指を指す。
「……解除魔法をするには今すぐと言うわけには行かないようだな」
 するとバルトは踵を返して部屋の入口へと向かう。
「き、騎士様! 早くそれをなんとかしてくだされ!」
 部屋の前から中を見ていたノルベルトが退室しようとしているバルトの前に立ち塞がり慌てたように叫ぶ。
「一昨日は満月でした。満月の日に近づくほど魔力は高まります。それにこの魔法陣は見たことが無い種類ですので少し調べた方がよろしいかと」
 魔力は月の欠け満ちに関係する。満月に近いほど魔力は高まり、新月に近づくほど魔力は弱まる。
 このような解除魔法を使用する依頼などは新月が近い日などに行うのだが、今回は依頼主であるノルベルトが早急に頼むと言うことなので魔術レベルが高いバルトが選ばれたのだ。
 しかし、待っていたのは予想外の魔法陣。
 基本的に魔法の解除などはその魔術式と同じ式で解除しなければならない。
 現在この世界にはヴァイス式、オーファ式、ガランド式の三つの式が存在する。今回の防護結界のように護りの結界はオーファ式が大半であって、聖職者の魔術式も大半がオーファ式で形成されている。
 だが、今回はこの三つの内のどれにも当てはまらない魔術式なのだ。
 魔術の才能が無いアルは知識をつけて一人前に近づこうと必死に勉強をし、博識ではあるがこの魔法陣の魔術式は始めてみるタイプであった。
「しかし! もし何かあったらどうするのですか!?」
 バルトの説明に納得せず、ノルベルトは必死の形相で説得している。
「安心してください。あれはただの防護結界です、護る以外は何もできません。周辺に魔力の反応がありませんのでしばらくは問題無いです」
「しかし……」
 先ほどの必死の形相も弱まり、冷静に対処するバルトの言葉に無理矢理納得したようだ。
「……判りました。では、御二方の今日の宿泊先へ案内しましょう」
 ノルベルトは渋々歩き出した。バルトもその後に続く、アルも追いかけようとすると、
「待って!」
 突然、右腕を?まれた。
 そこにはイルゼが何かに縋るような表情でアルを見つめている。
「お願い……エマを、私の姉さんを助けてください」
「姉さん?」
「お願い……お願い……エマは、悪くないの……私が、私が、私が……」
「え……? それはどう言う……」
 涙を瞳に浮かべるイルゼの不振な言葉を問おうとするが、
「アル」
 外から兄の呼ぶ声が響く。
「あ……はい、兄さん! 待ってください!」
 外で待つ兄へと声を上げ、右腕を握るイルゼの手を両手で力強く握る。
「大丈夫、絶対なんとかするから、安心して」
 アルはイルゼを元気付けるために、不安がまったくない自信に満ちた瞳で見つめる。
 イルザの表情からは不安と恐怖、後悔と言う感情は少し和らいだように微笑む。
 そしてアルはイルザの手を離して家屋の外へと向かう。
 だが、アルは一つだけ彼女に嘘を付いていた。今回依頼内容は魔法陣の破壊ともう一つ、

 少女の消去――――

 それが村長であるノルベルトの依頼内容だった。



 少女が追われ、少女が追いかける。
 追われる少女は美しい金髪を靡かせながら木々に囲まれた深い樹海を走る。地面は荒れ果て、折れた枝や大小さまざまな石が転がる。
 その後を追うのは追われる少女と瓜二つの美しい金髪の少女。
 追う少女は透き通るように蒼い瞳。
 追われる少女は燃えるように深く紅い瞳。
 二人の少女は深い樹海を走り続ける。
 すると紅い瞳の少女は躓き地面へと大きく転ぶ。
 掌を地面で擦り、膝からは鮮やかな血を流す。
 痛みに耐えて逃げようと腕に力を入れる。すると背後に枝を踏む乾いた音が響く。
 紅い瞳の少女は恐る恐る背後を見る。そこには蒼い瞳に悲しみと怒りを混ぜた少女が見下ろしていた。
「いや……」
 紅い瞳には恐怖の色が浮かぶ。首を左右に振りながら後ずさる。
「……ごめんね。……でも、私の力を使えば助けられるから……」
 蒼い瞳の少女は悲しく、苦しく言うと右手を紅い瞳の少女へと向ける。
「いや……やめて………………――――」

 きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!!

 少女の悲鳴が樹海に悲しく響き渡る。



 ノルベルトに案内され、依頼の家からそう離れていない家屋へと案内された。
 その家屋は先ほど案内された依頼の家と同じような造りになっており、ついさっき掃除したように綺麗になっていた。
 ノルベルトが言うには、村人が住んでいたのだが、あの魔法陣が出てから不気味だと言って他の家に移り住んでいるそうだ。
 アルとバルトは現在、家の一室にて今後の話をしていた。
実際、アルがバルトに質問しているだけであるが。
「兄さん、あの魔法陣は何でしょうか? 近代魔術式でしょうか?」
 現在存在する三つの魔術式を現代魔術式と呼ぶが、その三つの魔術式をさらに改良を加えられ、魔術師個人が独学で創る魔術式を近代魔術式と呼ぶ。
「だけど、あの魔法陣には何も魔力の気配を感じませんでしたし」
 実際、魔法陣から魔力の気配がしなかった。
 普通の魔法陣は広範囲に魔力を放つために敵などに気づかれやすい。しかし、あの魔法陣はまったく魔力を放っておらず、家屋に入っても実際見るまで気づかなかった。
「何より、あの魔法陣! なんで魔法陣に六芒星が描かれていないのですか!?」
 魔法陣は基本的に円を描き、円の中に魔術式の魔術文で円を作るように一行の文を書いて、さらにその中に円を描いて六芒星を描くと魔法陣の完成なのだが。
 先ほど見た魔法陣はその六芒星が無く、魔術文が円の中心に文章のように整列されていた。しかし、その文もアルが今まで読んだことの無い文字だった。
「……アル、そんな一度に言っても五月蝿いだけだ」
 全身の鎧を全て外して、あんな重そうな鎧を全身に纏えるとは思えないほどすらりとした体のバルトが顔を顰めながら白紙に文章を書いている。
「すいません……。兄さん、先ほどから何を書いているのですか?」
 白紙を覗き込むとどうやら聖職協会宛のようだ。
「……協会で少し調べ物をしてもらう」
 文章を書き終えてバルトは最後に小さく魔法陣を描く。
 すると手紙は小さない光を放って形を変えていく。それは小さな猫へと姿を変えた。その猫は小麦色の毛並みをし、背中には先ほどの手紙より縦幅が少し大きいと思われる筒が一本括り付けられ、それを挟むように真っ白な羽が四つ生えていた。
「では頼むぞ、イェニー。送り相手は分かるな? なるべく早く頼む」
『了解、我が主』
 猫は低く威厳のある男性の声で言い、窓から家屋の外へと飛び立った。
 あの猫は兄の従者の一匹である。
 この世界の魔術を使う物は必ず身の内に秘める従者を持っている。
 従者とは魔力に反応して生まれる魔法生物である。最初は形を持たないが、主人の魔力を使用して現世に形を創れるのである。従者は主人に忠実であり、時には主人と共に戦ったりする。普段は主人の中に眠っているが、必要な時に主人の描いた魔法陣から現れる。姿は最初に主人がイメージした姿を参考にして生き物の姿になる。兄がイメージしたら、猫で真っ白い羽が四つ生やした姿の従者が現れたのだ(何故、兄が猫と羽をイメージしたかは知らないが)。さらに従者は変化できるので巨大な龍の姿になったりもできるらしい。しかし、大きければ大きいほど戦闘能力は強くなるが、主人の魔力使用量もその分大きくなる。アルも早く従者を召還したいのだが、未だ上手く召還できないのである。
「調べ物って、あの魔法陣ですか?」
「ああ、確認のつもりだ」
 するとバルトは立ち上がり、机の上に置いてある執筆道具を片付け始める。
「確認のつもりって…………兄さん! 何か分かったのですか!?」
 流石、自分の兄だ。と思いアルはバルトに真相を聞こうと声を上げる。
「確認だと言ったはずだ。それに明日は早朝から調べることがある、早く寝るんだ」
 騒ぐアルを叱るようにバルトは言う。
「はい……、判りました」
 渋々アルは部屋を出て、隣の自室へと向かう。
 部屋の中はバルトの部屋とまったく同じ造りだ。
「もう……兄さんは絶対、何か気づいていると思うんだけどなあ……毎回僕に教えてくれないし、もう」
 ベッドに座るとアルは、ブツブツと愚痴を言っていた。



 小鳥の囀る清々しい青空の中、朝日を浴びて爽快に目覚める。
 と言う妄想は起こらず。
 アルが朝、目を覚ますと、小鳥ではなく烏が叫び、空は淀んだ灰色の曇り空、結局あの後は謎解きに費やしてしまって睡眠時間が大幅に削れて寝不足になっていた。
 寝ぼけながら僧侶服を身につけて部屋を出ると、既にバルトは鎧を纏い支度を終えて椅子に座っていた。
「遅い、早速だが出かけるぞ」
 バルトは不機嫌そうにアルに視線を送って家屋の外へと続く扉に向かう。
「はい。……兄さん、朝食は?」
 寝ぼけ眼になりながらも元気の元になる食料を探す。しかし、部屋の何処にもそのような食器類などは無く、それらしい物も見当たらない。
「……そんな物は無い。村人は用意する気は無いようだな、さっさと帰って欲しいのだろう」
「そ、そんなあ」
 本気で落ち込むアル。
「時間が惜しい、行くぞ」
「はい……」
 足取り重く家屋の外へと出ると、薄暗い空よりさらに暗い雰囲気を放っていた。日が上がってからそれなりの時間が経過しているのだが、人の気配を感じるが昨日と同じく人間の姿は確認できず、不気味な視線を感じる。
「……兄さん、まず何処へ?」
 周囲の雰囲気に恐れながらも隣で平然としている兄へと聞く。
「イェニーが帰ってこないと話が進まないが、もう一度あの魔法陣を見に行く」
「はい、判りました」
 二人はあの依頼の家へと向かう。その姿に合わせるように無数の視線が動く。
 目と鼻の先にある目的の家にはすぐに着く、すると無数の視線が忽然と離れて消えた。
 バルトが古びた木の扉をノックすると、家の中から「はーい」と少女の声が響く。
 ぱたぱたと家の中を走る音が聞こえると扉はゆっくりと開く。そこには流れるように美しい金髪に透き通るように蒼い眼の少女――イルゼが昨日と同じように出迎えた。
「あっ! 騎士様! 今日こそエマを助けてくださるのですね!」
「……すまないが、あの部屋にもう一度入りたいのだが」
「はい! すぐにでもどうぞ」
 イルゼに許可を貰い、昨日と同じ部屋へと向かう。
 部屋の中ではイルゼと瓜二つの少女が昨日と同じように魔法陣の中にあるベッドで眠りについていた。
 バルトは一通り魔法陣の魔術文を見ると、視線をイルゼに移す。イルゼはビクッと一瞬身を強張らせる。
「一応、君たちの関係を教えてもらおうか」
「は、はい……」
 イルゼは恐る恐る頷くと静かに喋りだした。
「私はイルゼ。そして眠っているのが双子の姉のエマです」
「ふむ、ではこの状態になった経緯とかは判るか?」
「いえ……一ヶ月ほど前、エマが魔術を使っている姿を目撃したのです」
「ほう、魔術か。この村に最近来た魔術師はいるか?」
「いえ……ここ数十年は来ていないそうです」
 その言葉を聞き、アルがバルトへと呟く。
「じゃあ、やはり独学?」
「だろうな」
 魔術を学ぶ方法は二つ存在する。
 一つは、技術力のある魔術師の弟子として学ぶと言う方法である。これが一番確実で、時間は掛かるものの平均した魔術を学べる。
 もう一つは、独学で魔術を学ぶと言う方法だ。しかし、この方法は安定せず、独学なので弱い近代魔法が完成する可能性があり、長持ちしない学習方法だ。
 だが、あの少女が独学で学んだとなると少し不思議なことがある。
 まだ若く、アルと同年齢と思われる少女が独学でこの強力な結界を張れるのだろうか。謎がさらに増えた。
「ある日……エマにそのことを問いただしたのです。するとエマが逃げて、私も無我夢中に追いかけたらエマが突然悲鳴を上げて倒れたんです。急いでエマをこの部屋まで運んで医者を呼びに行ったのです。そして戻ってきたらあんな風になっていたのです」
「そうか……」
 説明が終わるとイルゼは俯き両手で覆った顔に影が落ちる。
「……私が……きっと、私が……」
 肩を小刻みに震わせ、小さく嗚咽が漏れる。
「だ、大丈夫だよ!」
 慌ててアルがイルゼに近づき元気付ける。
「君の姉さんだって僕たちがなんとかするから! ね、兄さん!」
 首を兄へと向けて同意を求めるが、バルトは面倒くさいようにアルを見る。
「ああ」
 短く頷く。するとアルがイルゼに向き直る。
「だから、安心して。ね?」
 優しく、笑顔で言う。
 ぐずっていたイルゼはその笑顔を見て次第に元気を付けていった。
「…………はい、ありがとうございます」
 力強く笑顔で返した。



 イルゼの家から出た二人は村と村周辺を探索した。
 その後、村長宅に行きノルベルトから先ほど聞いたイルゼの話を確認するとほぼ間違いないと言うことだ。
「……それより騎士様。早くなんとかしてくれませんか? 村人は恐れてあまり外に出なくなってしまったのです」
 現在アルとバルトはノルベルトの家で昼食を摂っている。
 村長と言っても田舎の小さな村である。豪華な食事はでず、パンとスープだけと質素な食事である。肉を客人に出すほどは無いらしい。いや、出したくないのかもしれない。
「村長殿、今回の魔法陣は危害がありません、ただ護るだけですから大丈夫です」
「いや……しかし……」
「それに、現在協会の方に調べ物をしてもらっていますから、明日にはなんとかなるはずです」
「そうですか……」
 不満そうに頷くノルベルトとゆっくりとスープを口に運ぶバルト。
 既に食べ終わったアルは二人の会話を静かに見ていた。
 バルトは異様なほど食べる速度が遅い。人の三倍は時間が掛かる。
 先ほど村を探索した時に何箇所かに魔力の残り香が発見された。
 残り香とは魔力を使用した時に、その場所から魔力特有の気配がし、何日かはその気配が残る。
 一瞬、イルゼの姉であるエマが魔術を使用した跡かと思えたが、その跡は村中のあちらこちらに存在した。エマが村人に内緒にしていたのなら街中で使うとは思えない。
 村の周辺を探すと一箇所だけにかなり濃い残り香を発見できた。恐らくこちらがエマの魔術の残り香だろう。
 さらに増えた謎を解くためにアルは賢い頭を使う。



 その夜、一通り村を調べ終わったアルたちは昨日借りた家の中で休息を取っていた。
 ノルベルトの家を出た後、これと言った物は発見できず、村人の不気味な視線を全身に受けていただけである。
 本当に奇怪しいほど何も発見できなかった。
「兄さん、この村は一体なんでしょうか? 奇怪しすぎますよ。昨日は少し見かけた村人ですが、今日は視線しか感じられなく、姿を見たのは村長さんとイルゼさんだけじゃないですか」
「奇怪しいが、それ以上どうもできない。俺たちはあの魔法陣を解けばいいだけだ」
 不安がるアル、窓を開けて夜空を見上げるバルト。
「兄さんは解除したら、あの人……エマさんを殺すの?」
 今回の依頼内容であるエマの抹殺。ただ魔法を使って気を失っている少女を兄は殺すのか心配だった。
 一瞬だけアルを見ると、バルトはすぐに外に視線を移す。
「…………魔術を使っただけだ、誰にも危害は加えていないが、村には住めないだろうな。しかたないから協会に保護してもらうだけだ」
 夜空を見上げながらバルトは静かに言った、
 そんな素っ気無いバルトを見てアルは不安に満ちた顔を崩して満面の笑みになる。
 兄は冷たいと思われるが心優しく人思いな人間なのだ。アルはそんな兄を尊敬する、世界で一番尊敬する。
 窓の外から、バサバサと何か羽ばたく音が響く。すると窓の縁に小麦色の毛並みをし、背中には真っ白な羽が四つ生えている猫――イェニーがちょこんと降り立った。
『待たせた、我が主』
「うむ、例の本はあったか?」
『ああ』
 するとイェニーが短い腕を正面に突き出す。両腕の先に桃色の魔法陣がイェニーより少し大きく現れる。その魔法陣からゆっくりと分厚い鮮やかな紫の表紙をした本が現れた。宙に浮く本を受け取ったバルトがイェニーの頭を優しく撫でる。
「よくやった、ゆっくり休め」
『はい、我が主』
 イェニーは顔を気持ちよさそうに綻ばせると、青白い光を放ってイェニーの体は消え去った。
 それを確認すると、バルトは手に持った分厚く重たそうな本を開き、流れるように頁を捲っていく。
「兄さん、それなんですか?」
 見たことが無い目立つ紫色の本を指差しながらアルが問う。
 バルトは視線を動かさずに頁を捲りながら答えた。
「……古代魔術式の書物だ」
 その言葉にアルが少し疑問に思う。
「古代魔術式ですか? 一応魔術式は可能な限り全て覚えましたが、あんな魔術式の魔法陣はありませんでしたよ」
「一般の本ではな」
 バルトは頁を捲りながら答える。
アルは首を傾げてバルトへと近づく。
 紫色の本を覗くと頁にはアルが見たことの無い魔術式が数多く書かれていた。
「……なんですか、これ?」
「古代魔術式の書物」
「いや、先ほど聞きましたから判ります。この内容ですよ」
 こちらの話にあまり反応しない兄に少し苛立ちながらも我慢して問いかける。
 その兄はそんな様子を気にせず語る。
「……これは、古代魔術式の書物と言うより神代魔術式と呼ばれる魔術式が書かれている」
「神代……魔術?」
 聞きなれない言葉にアルが首を傾げる。
「まあ、しかたない。神代魔術は国の極秘事項だからな。一介の聖職者が知るほど簡単な内容じゃない」
 アルは静かに頁を捲るバルトを見つめる。
「神代魔術は、この世界が昔、神と呼ばれる存在と共に生活をしていた時代があったのは知っているな?」
「はい」
 セトゥリュシスは遥か昔、世界は大きく三つの国に別れていた。一つは人間が暮らす国、二つ目は魔物が暮らす国、そして三つ目は神が暮らす国。
 それぞれの国はそれぞれの文化と魔術を持ち、絶妙なバランスを保ったまま国同士は平穏な日々を送っていた。
 しかしある日、魔物の国が人間の国へと攻め込んだ。魔物の国は人間より遥かに逞しく強大な魔術を扱う種族であり、当時の人間は太刀打ちできなかったと言われている。
 人類の危機に隣国である神の国は立ち上がり、神の特殊な魔術を使い、魔物の国を退け、今回の戦争の指導者は処刑し、世界は平穏な日々を再び取り戻した。
 人類は神の国と友好関係を持ち、神の国は人類の魔術を強化し、魔物にも立ち向かえるような力を与えた。
 それが現代魔術式の原点であると言われている。
「しかし、神はある時、この世界を捨てて大いなる大地を見つけるために旅立ってしまった」
 その後、神は消えた。
 神は新たな大地を探しに旅に出た。いや、きっと今までは幻だった。などの憶測が飛び交ったが、結局判らず兄が言ったような話になっている。
 しかし、その時に全ての神が消えたわけではなかった。
 人間の国や魔物の国に移動していた神の住人は消えず、故郷を失い大いに悲しんだ。
 残された神の住人は、各々の場所に住み着き、各々の生活を送り出した。
「その神の住人が使う魔法陣があれだ」
「へっ?」
 アルはあまりの突然のことに間抜けな声を漏らす。するとバルトは頁を捲り終えて、ある頁が開かれていた。
「神の魔術式は我々に教えた原点の魔術式ともう一つ、とても強力で不可思議な魔術式があった。その魔術式をできる限り調べ集めたのがこの本だ」
 魔術式はとても繊細で他の魔術式を学ぶと、体内の魔力内でそれぞれの式がぶつかり合い、最悪の場合使用者を殺してしまうと言うほど魔術式を二つ学ぶとは危険な行為なのだ。
「これだ」
 バルトはとある頁を開き、アルに見せる。
「あの少女……エマの周辺にあった魔法陣だ」
 その頁にはあの真っ白な光を放つ魔法陣と同じ物が描かれていた。
 バルトは本に視線を移す。
 すると読み続けると本は桃色の淡い光をゆっくりと放って消えてしまった。
「あれ? 複製魔法でしたんですか?」
 複製魔法とは一定の物をまったく同じ姿で作り出す魔法。
 しかし、永久的に形を保っているのは難しく、暫くすると跡形も無く消えてしまう。持続時間は魔術師の魔力に比例する。
 ちなみに、金貨などの硬貨は、特殊な魔術を掛けており複製は不可能である。
 聖職協会でもそれなりの魔力を持つバルトなら書物の一冊や二冊、何十年も保っていれるはずなのだが、先ほどの紫色の本は恐らくイェニーが協会から持ち出してから一日程度しか形を保てなかった。
「基本的に持ち出し不可の書物だからな。無理矢理複製魔法を使って持ち出したのだが。流石に対抗魔法があったようだな」
 そう言うと、バルトは家屋の外へと向かう。
「兄さん? 何処へ?」
 問いかけるアルに肩越しバルトが向く。
「依頼を完了させる」
 そしてバルトは扉を開け放った。
 アルは慌てて兄を追いかけて家屋の外へと飛び出した。



 イルゼの家の前に移動すると、人影が幾つかあった。
 イルゼとノルベルト、村人が数人。そして、明らかに村人とは違う服装をしている男二人。
 一人の男はバルトほどでは無いが身軽そうな翡翠色を基調として造られた騎士甲冑を纏い、漆黒のマントを靡かせながら相手を見下したような目で見る壮年の男。
 そしてもう一人は龍の絵が描かれ不思議な模様が描かれるマントを纏う。マントの下は騎士風の男とは違い、甲冑はまったく身に着けておらず、手には身長より頭三つ分大きく翡翠色に輝き槍のように先が尖っている杖を持ち、身軽そうな体をしている鋭い眼光の壮年の男。
 ノルベルトはアルたちに気づき、慌てた様子で近づく。
「き、騎士様……これは……その……」
 気まずそうに言葉を捜すノルベルト。
 二人に気づいてイルゼも近づく。
「騎士様! あの人たちをなんとかしてください! いきなり来てエマを遣せと言ってくるのですよ!」
 イルゼは憤怒の表情で訴えるように叫ぶ。
 しかし、その場の雰囲気を壊す陽気な声が響く。
「これはこれは。聖職協会の騎士さまじゃありませんか」
 甲冑の男が人を小莫迦にしたような嫌らしい表情を作りながら近づいてきた。
「こんな辺境の田舎村に何をしていらしているのですかなぁ? 聖職協会はお暇なのですねえ」
「ふん、お前たち魔術協会こそ」
 この腹立たしい男は服装から見て魔術協会の魔術騎士であろう。そして、恐らく後方にいる男は魔導師だろう。
 ジュラルヴィ王国内の魔術ギルドの一つである攻撃用魔術師を中心に構成された魔術協会は、聖職協会をあまりいい目で見てはおらず、建前上ギルド内の組織として友好を保っているが内部ではかなり敵視している輩が多い。魔術を使えるのは魔術協会だけで十二分と言う考えなのだろう。
「いやー俺たちはこの村にある『悪魔の子』を吹き飛ばしに来ただけさ」
「何……?」
「エマは悪魔の子じゃない!」
 バルトが眉を顰め、イルゼは殺意を瞳の込めながら男を睨む。
「おおーと、そう睨むなよ。村長は聖職協会じゃ頼りないから魔術協会にも依頼を出していたんだよ」
 甲冑の男がノルベルトを親指で指すと、ノルベルトは、ビクッと強張らせる。
「いえ……その……早く……解決をと……」
 口篭り、何を言っているか聞き取りにくい。
「まっ! そう言うことだ! 聖職協会の奴らは外でゆっくり待っていな!」
 踵を返して甲冑の男と魔導師の男はイルゼの家へと歩を進める。
「待ちなさい!」
 イルゼが甲冑の男の腕を掴む。
「邪魔だ」
 甲冑の男は何の迷いも無く、イルゼの腕を振り払う。
「きゃっ!」
 イルゼは払われた勢いで転び、地面を全身で受ける。
「大丈夫!?」
 アルが倒れるイルゼを抱き起こす。
「はい……」
 イルゼは倒れながら甲冑の男を睨む。
その視線を無視し、甲冑の男は再び歩き出してイルゼの家へと向かう。
「ちょっと……待っ」
「アル」
 バルトはアルを制止させる。
「何ですか兄さん! あんな奴らに好き勝手やらせていいのですか!?」
 協会を莫迦にされ、何も言い返さない兄にアルが憤慨し声を荒げる。
 怒りに震えるアル。するとバルトがアルの頭の上に手を置いた。
 その行為にアルが一瞬呆然とする。
「……その気持ちは判るが、危ないぞ」
「危ない……?」
「そう、危ない」
「…………?」



「……くくく。見たかあの聖職協会たちの顔、いい気味だぜ」
 甲冑の男は嫌らしい顔を作りながらベッドに眠るエマを見つめる。
「そんなことより、さっさと終わらせて酒が飲みたいんだ」
 魔導師の男が一歩出て感情が無い表情でエマを見下ろす。
「おっと、そうだな。じゃあ頼むわ」
 甲冑の男が魔導師の男の背後へと移動する。
 魔導師の男がそれを確認すると手に持った翡翠色の杖をエマに向ける。
「……解除」
 魔導師の男が呟くと杖が淡く光り、金属がぶつかる音が静かに長く響く。淡い光を放った杖の先から一層濃い翡翠色の光が一閃し、エマへと向かう。
 しかし、その光はエマに当たる前に空中で波紋を作って消え去ってしまった。
「おろ? どうやら解除魔法が効かない魔法陣みたいだな」
 甲冑の男が陽気に言いながら微笑する。
「……ふん、そんなのどうでもいい。吹き飛ばせばいい」
 魔導師の男は眉を顰めながら手に持った杖を持ち直し、両手でしっかり握り、両足を広げて衝撃に耐える構えになる。
「よし、やれやれー」
 甲冑の男が茶化す。それを気にせず魔導師の男は両目を瞑り、静かにだが人間の耳では聞き取れない言葉で何かを呟き始めた。
「―――――――」
 それは不気味に、地鳴りのように響く呪文。
「――――」
 杖は鮮やかな光を放ち、魔導師の男の足元には翡翠色の魔法陣がゆっくりと回転しながら現れる。
 部屋は先ほどと変わり、薄暗くなり空気が重くなる。 甲冑の男もその気配に身構え魔導師の男の背中を見つめる。
「――――……」
 地鳴りのような呪文は静かに終わり、魔導師の男は目を見開き叫ぶ。
「火炎荒天爆雷! レベル]LW」
 シンッ――と周囲の音が消え去る。
 無音。不気味な静寂。
 その静寂の中でエマを囲む魔法陣をさらに囲むように翡翠色の魔法陣が現れる。こちらは円の中心に六芒星が大きく描かれており、魔法陣とは別に時計回りで回転している。
 刹那、轟音と共に突撃槍のように先端を尖らせた炎が木材の天井を突き破り、翡翠色の魔法陣の中央目掛けて降り注ぐ。
 火炎荒天爆雷――指定された位置に大小様々な魔法陣を一つ設置し、魔法陣を目指して空から突撃槍の形をした炎が降り注ぐ。レベルが上がる毎に炎の数と威力は上がるが、呪文を唱える詠唱時間が上がり、敵に先手を撃たれるか逃げられてしまう。
 今回のように対象が固定されて動かない場合は高威力のレベルでもゆっくり唱えられる。
 今回唱えたレベル]LWは、威力がとても高く詠唱速度もそれなりに速いので汎用度が高い。最高レベルはC(一〇〇)まで存在する。
 炎の突撃槍は対象物や魔法陣である地面に当たると爆発し、火の粉が周りに飛び散る。

 ――はずだった。

 炎は眠るエマに当たらず、彼女の目と鼻の先で波紋を描き綺麗さっぱり消えてしまった。
「何……?」
 魔導師の男が目を見開き驚きの声を上げる。甲冑の男も驚き、その光景を見つめる。
 炎は全て波紋と共に消えてしまい、残ったのは炎が開けた天井から、パラパラと落ちる木屑の音だけだった。
 魔導師の男と甲冑の男悪化に取られていると、突然二人の前にエマの周りの魔法陣とは別に一つ浮かび上がる。
「――! 障壁を!」
 それを見て甲冑の男が叫ぶ。魔導師の男も杖を前に出す。
「しょ、障壁!」
 慌てながらも短く唱えると二人を囲むように緑色の半透明の球体が現れた。
 だが、エマの魔法陣から一層濃い翡翠色の光が一閃し、二人を護る球体に当たる。
「なっ!?」
 魔導師の男が驚愕する。
 半透明の球体は翡翠色の光が当たると、当たった部分から硝子が砕けるように壊れていき、バラバラと崩れた。
「解除魔法だと!?」
 甲冑の男が目を見開き叫ぶ。
 するとエマの魔法陣が淡く輝く。
「ま、まずい! にげ――――」
 魔導師の男の台詞は魔法陣から放たれた無数の突撃槍の形をした炎により、家を吹き飛ばしながら甲冑の男も巻き込み、掻き消した。



「兄さん、だから危ないってなんですか?」
「一体何故ですか?」
「見ていれば判る」
「さっきから見ていますか変わりませんよ」
「です」
 先ほどからこのような押し問答を繰り返している。
 現在三人はイルゼの家から相当離れた距離に居る。
バルトが危険と言い、家屋周辺に居た村人も離れるように指示をした。
「ん……」
 バルトが空を見上げる。アルとイルゼも空を同じく見上げると、空から槍のような形をした炎がイルゼの家目掛けて降り注ぐ。
「あれは!」
「火炎荒天爆雷か……」
「に、兄さん! 何落ち着いているのですか! あれではエマさんが!」
「エマが! エマが!」
 この状況に焦りもせずに落ち着いたバルトに驚き、慌てて声を上げる。イルゼは既に狂ったように「エマ」と叫び続けている。

 だが次の瞬間、家屋は轟音と共に木々を跡形も無く燃えつくし爆発した。

「――――!?」
 爆音にアルとイルゼが目を見開いて現状を理解しようと家屋が在った場所を見つめる。
 そこには粉塵が起こり、何があるかは確認できなかった。
「い――――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 イルゼはこの世の終わりのような悲鳴を上げて爆心地を目指して走り出した。
「……よし、行くぞ」
 するとバルトがその後を追うように歩き出した。
「え……ま、待ってください! 兄さん!」
 ゆっくりと近づくバルトの後ろを警戒しながらアルも近づく。
 家屋の在った場所に近づくと粉塵も治まり、跡地の光景も見えてきた。
 木造の家屋は跡形も無く消え去り、地面には小さな木屑が無数に散らばり、硝子の破片や燃えきらなかった布の一部などが落ちていた。
 だが、唯一残っていたのが在った。
 あの神代魔術と思われる魔法陣の中に存在している物、木材の床とベッド、そして静かに眠るエマが残っていた。しかし、神代魔術の魔法陣は床の何処にも存在していなかった。
 ベッドの横にはエマの手を握って「エマ! エマ!」と涙を流しているイルゼが居た。
「こ……これは?」
 アルが現状を理解しようと兄に答えを問う。
「これが、神代魔術だ」
 バルトが静かにエマを見据えながら言う。
「あの魔法陣は先ほど調べて判ったが、護衛用魔術の一種だった」
「護衛用?」
「魔法陣内に存在するモノ≠、魔術、武術、武器などの危害を加えるモノ≠ゥら完璧に護る。さらに魔術などは吸収し、護るためにその魔力を反射し、相手に攻撃する最強の盾だ」
「じゃあこの惨状は……」
「恐らくあの魔術協会の魔術を吸収して反射したのだろう」
 ということは、あの嫌な二人組みの男は反射した自分の魔術で跡形も無く消えたのだろう。周りを見る限りではそのような姿は確認できない。
 依頼で人が死ぬのは何回か見てきたが、先ほどまでどんな形だろうと話していた相手が死ぬとは何か悲しくなる。
「だが使用者の意識が無いので手当たり次第に周りを吹き飛ばしたのだろう。それで力を使い果たして今に至ると言うところか」
 バルトはゆっくりと歩き、ベッド――泣きじゃくるイルゼの横へ移動した。アルはバルトに続き横へと移動する。
 近づくと判るが、ベッドの上で安らかに眠るエマの顔立ちは美しく、イルゼとは違う綺麗さを感じる。
「……よし、依頼は完了した」
「はい!」
 とにかく終わったのだ。何か呆気も無いが仕方ない。

「――――と行きたいが、そうはさせてくれないようだ」

「え……?」
 バルトの言葉にアルが呆気に取られる。イルゼも涙を手の甲で拭き取り見つめる。
「周りを見ろ」
 低く、重く、警戒しながら言うバルト。
 ハッと気づき、アルとイルゼは周りを見回す。
 そこには村人が居た。
 一人や二人ではない、無数の村人がベッドを中心に距離を取って隙間無く取り囲んでいた。
 村人は異様な目つきをしており、人間の物とは思えなかった。死んでいるようで何かを見つめる暗く濁った瞳。
「に、兄さん」
 その光景に恐怖し、身を強張らせながらアルは震える唇を動かした。
 呼ばれた兄は静かに村人たちを睨みつける。
 村人たちは一歩一歩ゆっくりと四人の間を詰めてくる。
 ザッザッと地面擦る音が幾音にも重なって響く。
 駄馬三頭分ほど離した距離で村人は一斉に止まり、暗い瞳で四人を見ている。
「み、皆! どうしたのよ!?」
 怯えながらイルゼが村人へと問いかける。村人は誰もその問いに答えなかった、一人を除いては。
「イルゼよ……」
 そこには先ほどまで申し訳無い表情をしていたノルベルトが立っていた。
 しかし、ノルベルトの瞳は鋭く、獲物を狙う獣のように静かに睨みつけていた。
 アルは全身に悪寒が走り後退る。すると背中に何か硬い物が当たる。驚いて後ろを振り向くとそこにはノルベルトを睨みつけるバルトが力強く立っていた。
「魔法陣が消えた今、貴方たちに用は無い。それにその子をここから出すわけには行かない。消えてもらう」
 ノルベルトは言い終えると待機していた村人たちが一歩前へと歩みだした。

 きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!

 突然、金切り声のような声が響く。
 真正面の村人数人が突然白い光に包まれ、苦しみ始めた。
 周りの村人はそれに驚き、苦しむ村人を見つめる。
 苦しむ村人は金切り声の様な断末魔を叫びながら体から光を発して、サラサラと崩れ去ってしまった。
「ふん、話し合う気も無いのならこちらも手加減はしない」
 バルトが中指と人差し指を立てながら崩れ去った村人たちが居た方向へと向けていた。
「やめて! 村の皆を傷つけないで!」
 イルゼが懇願するようにバルトロメーウスの鎧を掴む。
 そのイルゼを振り払う訳でも無く、目の前に反対の腕を出してバルトは制止した。
「村人は全て魔眷人となっている、彼らは人間では無くなった。もう戻れない」
 魔眷人――人から魔物になった半魔物の魔人≠ノ従う人間を超えた存在。魔人≠ノ絶対の忠誠を誓う存在。人間だけに問わずに生き物であれば人以上の力や知能を手に入れられる。
 その魔眷人が周りに山ほど居る。
 次の瞬間、魔眷人五人が恐ろしい速さで四人へと襲い掛かる。
「うわっ!」
 アルが短く悲鳴を上げ、頭を下げる。
 だが次の瞬間襲い掛かった魔眷人五人の上半身と下半身が鮮血を噴出しながら真っ二つに別れる。
 ボトボトと地面へと生臭い血を臭わせながら胴体は落ちていく。落ちた上半身や下半身からは鮮血以外にも臓器や脊髄などが剥き出しになっている。
 四人を取り囲むように円を描いて死体が五つ転がる。
 アルが恐る恐る頭を上げるとそこにはバルトが今まで持っていなかった剣先を血に染める銀色に輝く長剣を右手に持っていた。
「聖剣ファービニア′`成完了」
 バルトが言うと、銀色の長剣に付着していた血が蒸発するように消えていく。
 魔術を使えない兵士などは常備武器を装備しているが、魔術師など魔術を使える者は、魔法陣を使い自分の武器を縮小して常時持ち歩いている。そのため戦闘以外は動きやすく、国民などに警戒されることが若干だが少なくなる。
 聖職協会の武器は特殊であり、神のご加護を受けた武器しか持てず、それ以外は協会で禁止をしている。そのためか武器は他の協会より異様なほど高い耐久力を誇る。
「アル、イルゼ、あまり動くな、巻き込む可能性がある」
「は、はい」
「わ、わかりました」
 怯えながらアルとイルゼは頷き身を低くする。イルゼは眠るエマを強く抱きしめる。
 仲間が無残に殺された光景を皮切りに周囲を取り囲んだ魔眷人の村人が襲い掛かる。
 バルトは焦らず、自分の位置から一番近いと思われる村人の集団に向けて左手の中指と人差し指を向けて短く、
「浄化」
 と呟くと、指を向けられた集団――十人ほどが先ほどのような金切り声を上げ白い光に全身が包まれ、体はサラサラと崩れ去ってしまった。
 だが崩れ去った集団とは反対側――バルトの背後の集団がアルに襲い掛かる。
 しかし、アルの頭の上をバルトの聖剣が薙ぎ払い、村人は弾き飛ばす。
 バルトは右手の聖剣で近づいてきた敵を薙ぎ払い、左手で遠めに居る敵を消し去っていくが、村人の数が多く目に見えて減っていない気がする。
 至近距離で村人を薙ぎ払うのでアルたち四人に返り血が飛び散る。特にバルトの鎧は真っ赤に染まっており、まるでそれが元々の色のようになっている。
 それでも押されるわけでもなくバルトは的確に魔眷人を捌いていく。剣術や聖魔術などを得意とする兄にとっては数だけの敵を相手にするのは簡単なことだ。
 しかし、少し変だ。
 敵である魔眷人の村人は目の前で仲間が殺されているのに一直線にこちらに向かってきている。
 普通の魔眷人ならもう少し頭を使うと思うのだが。
 すると近づいていた村人はまた四人から間を開ける。
 それを見て、バルトも深追いはせずに、三人を護るように聖剣を構える。
「ふん、無駄に粋がりおって。時間を掛けて殺してやろう、若造」
 今まで後方に下がっていたノルベルトが前に出てきた。
「しかし、お主の力もなかなかの物だ。お主だけは助けてやる、我らの魔眷人とならぬか?」
 突然ノルベルトが相手を脅すように言い放った。
 その脅しもバルトは「ふん」と鼻で一蹴する。
「まあ、そう言いなさるな。魔眷人になれば人間では手に入れられない――――」
 ノルベルトが言葉を綴っている途中で、アルの顔の左側を銀色の何かが、スッと現れる。
 それと同時に、

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」

 耳を劈く様な断末魔と思われるほどの悲鳴が響いてくる。
 左側にある銀色の何かはバルトが持っていた聖剣。そしてその剣先には――イルゼの右肘が燃えるように鮮やかな血を流しながらが地面へと滴り落ちていた。
「がぁぁぁぁぁぁ……ぐっ!」
 今までのイルゼが出せるとは思えない呻き声を漏らしながら、肘に突き刺さる聖剣から離れるように後方に跳躍した。とても素早く、獣のように動くイルゼ。
 距離をとったイルゼは刺された右肘を押さえながらまるで別人のような瞳でバルトとアルを睨みつけていた。
 そう――燃えるような紅い瞳で――



 「……ごめんね。……でも、私の力を使えば助けられるから……」
 蒼い瞳の少女は悲しく、苦しく言うと右手を紅い瞳の少女へと向ける。
「いや……やめて………………エマ――」
 紅い瞳の少女は蒼い瞳の少女に懇願した。
「ごめんね……イルゼ……でも貴女はこのままでは人の心を失うのよ……その前に」
 蒼い瞳の少女――エマは自分へ言い聞かせるように言う。
「エマ……私は人間よ……さっきから何を言っているの……エマ、お願い……前のエマに戻って」
 紅い瞳の少女――イルゼは目に涙を浮かべながらエマへと言う。
 エマは静かに左右に首を振り、精神を集中させる。すると上げた右掌に淡い白い光の球体が小さく現れた。
「いや……いや……いや……」
 イルゼはボロボロと大粒の涙を零す。
「…………」
 迷わず、イルゼを助けようとエマは思っていた。
 しかし、イルゼはエマにとって双子の姉妹だが、イルゼは何時もエマの後を追いかけていた。イルゼはエマを慕い、頼っていた。
エマもイルゼのことを思い、護ってきた。
 だがある日、エマの頭の中に聞いたことが無い声が響いた。
 その声はエマの中に魔力があることを教えられた。
 だけどそれだけ。後は自分で学びなさいと無責任なことを言われたが、それからエマは毎日村人に隠れて魔術の練習をした。しかし、独学だと思うように学べず、あまり魔術は成長していなかった。
 その数日後、村の近くにある村人は知らない小さな水場でイルゼと共に体を洗っていた時、イルゼの首筋に黒い羽の紋章が描かれていた。それは昔、村長宅にて見た本に魔人≠ノなった人間の証として見たことがある。
 その日からエマは悩み、何か解決策を探さないと考えた。
 しかし、村人に話したらきっと協会に依頼を出されて殺されてしまう。
 すると、その日から村人が徐々にだが奇妙な雰囲気を出すようになった。
 エマは決意した。

 イルゼを消そうと――――

 そして現在に至った。
 だが、エマの中に迷いが出てきた。
 愛する妹であるイルゼをこの手で消し去ることに躊躇いが生じた。
「――――……エマ、ずっと一緒だよ」
 一瞬の気の迷いをイルゼが見逃さず、あっという間にエマの懐に入ったイルゼは口が裂けそうなほどの笑みを作り、狂った紅い瞳でエマを見る。
 接近戦はまったくと言っていいほどエマは対応できない。
「ぐっ」
 懐に潜り込んだイルゼはエマの首を捕まえる。
「ごめんね……でも、もうすぐエマも……私と同じになれるから……そしたらずっと……ずっと……ずっと……ずっとずっとずっとずっとずっと――――」
 狂った様に同じ言葉を繰り返す。
 ギリギリとイルゼの手に力が入る。遠のく意識の中でエマは謝り続けた。イルゼを助けられず、護れずに不甲斐ない自分が姉でいたことを。
 胸部に激痛を感じてエマは叫んだ。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」

 少女の悲鳴が樹海に悲しく響き渡る。



「――お前が魔人≠ゥ」
 バルトが右肘を押さえるイルゼへと剣先を向ける。
 イルゼは剣先を向けられても澄ました顔で聖剣の突き刺さった右肘へと視線を移す。すると右肘から、バキバキと音が響き、その音に合わせて右腕はそれが別の生き物のように動く。少しすると右腕は動きを止めて、右肘から流れ出ていた鮮血も跡形も無く消えていた。その右腕を開いたり握ったりしている。
「……なんで判ったのかしら?」
 イルゼはバルトへと紅い瞳を向ける。その瞳の中には光が無く、死んだような目つきをしている。
「あれほどの殺気を気づかないほうがどうかしている」
「そっか……一瞬で二人殺せると思ったんだけど、無理だったみたいね」
 その殺気に気づかなかったアルは自分の鈍さに恐怖した。
「最初は、村人の皆で襲い掛かればなんとかなると思ったけど、やっぱそうはいかないかな」
 不適な笑みを浮かべながらイルゼは一歩近づく。
「あまり魔眷人は減らしたくなかったんだけど、仕様が無いね」
 するとイルゼとノルベルトの周りに村人が数名集まる。
 その村人たちは今まで村人とは違い、何か明確な意思を感じる。
「そいつらが魔眷人か」
 バルトが言うと、イルゼは、クスクスと笑うだけだ。
 魔人≠ェ人間を眷族とする場合は魔眷人と呼ばれ、人の力を超える能力を持つ存在になるが、魔眷人が人を従える場合は人の力を超える能力を持てるが、知力は獣並に落ちる。恐らく今まで戦っていたのは魔眷人の眷族だろう。
「…………」
 アルはその恐怖しかない場で、立つことができないほど足は震えながらも、傍で寝そべるエマへと近づく。
「エマに近づくな!!」
 衝撃波のようにイルゼは怒号を飛ばす。
 アルは、ビクッと身を震わせ、イルゼを見る。
 イルゼの紅い瞳と目が合う。その瞳は明確な怒りが手に取るように判る。
「エマは私のモノ≠諱I 私だけのモノ=A誰もエマに触れちゃ駄目なのよ! 愛している私だけのモノ≠ネのだから!」
 狂ったように叫ぶイルゼ。既に眼の焦点は合っておらず、こちらを見ていない。
「私はエマを愛しているのよ。何時も私のことを助けてくれて、私の我侭にも付き合ってくれたの。私は幸せだった……」
 目を見開き、自分の欲求を言うかのようにイルゼは叫ぶ。
 しかし突然、イルゼは頭を垂れる。
「でもある日、エマは私に内緒で魔術の練習をしていたのよ……姉妹で秘密は無しって言ったのに……その時、私の頭の中に声が聞こえたの! 力が欲しいか? そう聞いてきたから私は、欲しい! と答えたの。そしたら次の日、私は人を超える力を手に入れたの! でも、魔人≠ヘ魔物と変わらないってって聞いて怖かったの……でも自我を無くすなんて嘘! 私はこんなにもはっきりしているのだから!」
 イルゼは頭を上げる。眼球が飛び出しそうなほど目を見開き、口が裂けそうなほど笑う。
 だけど……とイルザは目を伏せて続ける。
「……ある日、エマが私を消そうとしたの……私は怖くなって逃げたけど、エマが一瞬迷ってくれたおかげで捕まえられたの」
 イルゼが再び狂った笑顔になる。
「そして私はエマも私と同じ側にすれば良いと思ったの! 魔力のせいできっとエマは変になったと思ったから捕まえたエマを魔眷人にしようと思ったの……」
 アルは正常とは思えないイルゼから目を離せなくなる。
「そうしたら、魔眷人にする魔術が消されたの! 何回やっても駄目だったの。その内、手に力が入ってエマは気絶してしまったの。急いで私はエマを家に運んだの。でも次の日、エマの周りに魔法陣ができて近づけなくなったの。それに村人が気づいて協会に依頼が出されたの。私はこれ以上エマに危害が加わらないように既に何人か作った魔眷人も使って村人全員を私の眷属にしたのよ……。依頼を送ってしまったのならエマの結界を解いてもらって来た協会の人間を殺そうと思ったの」
「そして、俺たちが来たと?」
 バルトが問いかけた。
「そうよ」
 ふふ――とイルゼは右手で拳を作り口元に当てる。
「でも、あの魔術協会の人が解いてくれるとは思わなかったけどなあ……死んじゃったみたいだけど」
 心底嬉しそうに微笑む。
「魔法陣だけ解いてどうするつもりなんだ」
「どうもしないよ」
 イルゼは無邪気な顔で答える。
「エマはずーっと、私と暮らすの。今度は私がエマを護るの、魔人≠ニ魔眷人は長寿だから私とエマはずっと一緒に居るの。誰にも邪魔されずに、この村で静かに、二人一緒に暮らすの。だから協会にここを知られるわけにはいかないの」
 ゾクッとアルの全身に寒気が走る。
 イルゼからはアルにも判るほど明らかに殺意が出ていた。
「だから死んでね……そして私とエマは……ふふふ……ははははははは……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――」
 イルゼの紅い瞳は裏返るほど天を仰ぎ、口は動物のように大きく開かれた。不気味な笑い声が樹海に囲まれた魔物の村に木霊する。

「――――くだらない」

 その言葉に場が静まり返る。
「なんですって?」
 静かに殺意を込めてイルゼはバルトを睨む。
「姉が自分の思い通りにならないからと言い、悪魔に魂を売ってまで手に入れた力で姉を魔眷人としようとして。それの何処に姉妹愛があるのだ? ただ自分の思いを相手に押し付けているだけではな――」
「うるさい! 黙れ!」
 イルゼが言葉を消すように叫ぶ。
「貴様に何が判るの! そんなことを言って、貴方だって弟に冷たくして、そんなことが言える!?」

「違うッ!」

 突然の声に驚いたようにバルトとイルゼの視線が声の主――アルへと移る。
 今まで恐れ、小さくなっていたアルがゆっくりと立ち上がる。
 その目には恐怖もあったが何か反感するような目がそこにはあった。
「に……兄さんはそんな人じゃない!」
 震える声でアルが叫ぶ。イルゼは先ほどの殺意の目をアルへと向ける。
「ふん、何を言っているの。貴方はその男に冷たい態度で接しられているじゃない」
「たしかに、兄さんは冷たいところがありますが、内心は優しい人なんです!」
「どうだかね……それで愛されているとは思えないけど」
「僕は兄さんを信じています! 貴方は何ですか? エマさんは貴方がそんな姿を望むわけが無いでしょ!」
「うるさい! エマのことは私が一番知っているんだ!」
「エマさんが貴方を襲った時、迷ったと貴方は言いましたよね! 貴女を消すことに抵抗が表れて一瞬躊躇したのですよ! その迷いに気づかず貴方は今そのような魔物の姿になってしまったのですよ」
「う…………黙れ! その喉を掻っ切ってやろうか!」
「いいえ黙りません! イルゼさん、貴方の心は既に魔物です! そんなことでは貴方の思いはエマさんに届きません!」
「だ、だ、だ、だ、だ……黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 イルゼは額に血管を浮き出し、目は血走り、アルを睨みつけ叫ぶ。
 アルはその声と形相に驚き、一歩後退る。
 するとアルの頭にポンッと篭手で護られた頼もしい手が置かれた。
「よく言った」
 バルトが短く呟いた。
 その言葉に驚き、アルは「え?」と聞き返してしまった。だが、バルトは既に視線をイルゼへと向けていた。アルもイルゼへと視線を向けると必死の形相で二人を睨んでいる。
「エマも私と同じになればエマも判ってくれるのよ! エマはずっと一緒なのよ、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと――」

「――やめて、イルゼ」

 透き通るように美しい少女の声がその場に響くように聞こえる。
 その場に居る全ては静かになり、声の主を探す。
 だが、その声の主にいち早く気づいた者が居た。
「……エ、エマ?」
 イルゼが驚いたように声を漏らし、こちらを凝視する。
 その視線をなぞるように視点をずらすとそこには今まで寝ていた、今回アルたちが来る原因になった少女――エマが透き通るように蒼い二つの瞳を開いて暗黒の空を見上げていた。
 エマはゆっくりと寝続けて鈍った体を両腕で起き上がり、イルゼを悲しい目で見つめる。
「エマ、エマ、エマ、エマ、エマ、エマ、エマ……」
 先ほどまでの殺意に満ちた表情が嘘のように消え、大粒の涙を流しながらエマの名前を呼び続ける。
「よかった……目が覚めて……」
 イルゼは一歩前に踏み出す。
「やめて、イルゼ」
 エマが歩こうとしたイルゼを静止する。
イルゼは驚き、訳が判らないような顔をしている。
「え……? どうしたの、エマ――――」
「もうやめて、イルゼ」
 エマはイルゼを見つめる。
「私は、そんなイルゼを見たくないの。人でいた時のエマでいて欲しかったの、元に戻って欲しかったイルゼ」
 訴えるように、エマは悲しみながらイルゼへと言う。
「何を……言っているの? 私は、ずっと私よ……」
 イルゼは狼狽した表情でエマへと答える。
 エマは首を左右に静かに振る。
「……いいえ、もう貴女は昔のイルゼでは無いわ」
「私は、私は……」
 その事実を否定するようにイルゼは頭を左右に振る。
「貴女はもう、魔物よ……イルゼ」
 エマは、悲しく、真実を伝えた。
 その言葉にイルゼは小刻みに全身が震えだした。口は素早く何か呟いているが聞こえない。両手で頭部を押さえ込み、俯いたままである。
 動く気配が無いイルゼを一瞥して、アルはエマへと近づく。
「エマさん、大丈夫ですか?」
「はい……眠っている間に色々あったみたいで、すいません」
 苦笑いをしながらエマは答えた。
「あの……イルゼはどうなるんですか?」
 エマは節目がちに聞いてきた。イルゼへと視線を移すとまだ頭を抱えたままである。
「残念ですが、魔人≠ノなってしまったら浄化するしか道は無いです」
「そうですか……」
 エマは痛嘆した表情を作る。
「――がああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 突然の悲鳴にアルとエマは顔を上げる。
 後方に村人の死体が、ドクドクと鮮血を流しながら倒れていた。
 バルトが聖剣を構えていた。
「アル、あまり余所見をするな」
「は、はい!」
 まだ自分たちは敵に囲まれたままだ。気を抜いてはいけない。
 するとノルベルトの周りに居た魔眷人が一人、バルトへと襲いかかった。
 獣のような咆哮を響かせながら先ほどまでの村人とは明らかに違う動きで近づく。
 バルトが聖剣でその魔眷人を胴切りで払おうとするが、魔眷人は低くしゃがみ、聖剣を避けるとバルトの唯一肌が見える顔面へと目にも止まらぬ速さで突きを繰り出す。
 だがバルトは首を横へと動かし、突きをギリギリで避けると胴切りした聖剣をそのまま反して魔眷人の胴を薙ぎ払う。
 魔眷人は断末魔を上げながら上半身と下半身は別々に地面へと落ちる。
 一瞬の出来事だった。

「――――ゆるさない」

 アルは耳元から聞こえた不気味な声に驚き勢いよく振り向く。
 そこには、殺意しかない紅い両眼で睨み涙を流すイルゼが居た。
 バルトが魔眷人と戦って一瞬でも隙が出ればイルゼにとっては十二分だった。一瞬で近づき、アルを殺す。
 アルは瞬間的に危険を感じ素早く呪文を唱える。
「防壁!」
 刹那、イルゼの突きがアルの眉間目掛けて伸ばされた。
 だが突きは目の前に現れた小さい魔法陣により防がれたが、魔法陣にすぐに無数の亀裂が入り、粉々に砕け突きはそのまま真っ直ぐ伸ばされた。
 しかし、その一瞬の静止によりアルは突きの軌道から外れた。
 その光景にバルトが気づき素早くイルゼへと左手を向けるが、素早く反応をしてイルゼは三人から距離を取る。
「……アル、大丈夫か?」
 バルトがいつもと変わらない無愛想な顔で聞いてくる。
「は、はい……なんとか……」
「そうか」
 アルは、バクバクと鼓動する心臓を胸の上から手を当てて押さえる。無事を確認するとバルトはイルゼへと視線を動かす。
「…………」
 そこには力をいれず無気力に両腕をぶら下げながらイルゼはブツブツと同じことを繰り返す。

「ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない――――」

 先ほどまで微かに人間の気配が存在したイルゼ。
 しかし今はもう感じない。
 そこに居るのはただの魔物……イルゼという少女は消えてしまった。
「お前たちが居るからエマは奇妙なことを言うんだ。お前たちが居るから……ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない……」
 口からは唾液を流し、目を充血させ瞳孔を開く。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――――ヒヒャ……ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
 身の毛も弥立つほどの狂乱したイルゼの笑い声が響く。
 その笑い声が合図のように周囲に居た全ての村人が一斉に地面を走る音を幾つも響かせながら襲い掛かってきた。
 先ほどとは違い、魔眷人も多く居る。
 魔眷人はついさっきあったように、バルトを一瞬だが止められる存在だ。それが何人か同時に襲ってきたとなるとバルトでも命の危機である。
 さらにその間にこちらに敵が来る可能性もある。アルはまだ明確な攻撃魔法を学んでなく、先ほどのように防御魔術が少し使える程度である。
 アルとバルトが身構える。
 勢いよく、周囲を囲む円は小さくなっていく。

「――――もう、いいんだよ」

 エマが呟く。
「もう、寝よう、イルゼ」
 暖かい笑顔をしながら頬に一筋の涙を流す。
 子供を諭すようにエマはイルゼへと言う。
 次の瞬間、エマが居る場所を中心に魔法陣が現れた。それはあの六芒星が描かれていない文字だけの真っ白な魔法陣。
 その魔法陣は光を放ち、アルとバルトを白い光が包む。
「これは……」
 アルは全身に纏わり付く光に声を漏らす。
「もう休んでいいよ、皆」
 エマが涙を拭う。
 すると襲い掛かった村人たちは動きを止めて棒立ちになった。
 エマに近い村人から順にサラサラと砂が風に舞うように体が白い光の粒を出しながら消えていく。
 それは幻想的で、美しい光景がそこにはあった。
 幾つもの光の粒が、生き物のように夜空へと飛び上がっていく。
 暖かく、優しい光の粒。
 全ての村人が光の粒へとなり、周辺は昼のように明るく、綺麗になっていた。
 その光の世界の中で存在したのは、エマ、アル、バルト、そして狂乱し笑い続けるイルゼだけだった。
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ――――」
 恐らく周りの光景が見えていないのだろう。
 イルゼの体はゆっくりと爪先から光の粒となっていく。
「ごめんね、悪い姉さんでごめんね」
 エマは今にも泣きそうな表情でイルゼを見つめる。
 イルゼの体はゆっくりと光になっていく。
 ゆっくりと……、イルゼの最後の姿を覚えるようにゆっくりと。
 既に胸元まで消えていた。
 するとイルゼの狂乱した笑いは消えていた。
 いや、魔人≠ニしてのイルゼでは無く、人間としてのイルゼの表情がそこにはあった。
「――――!」
 その表情にエマは驚き目を見開いた。
 驚きの表情はすぐに破顔した。

「……お休み、私の大事なイルゼ」

 そしてイルゼは最後にエマに答えるように笑顔になり、光の粒となってこの世から跡形も無く消えてしまった。
 周りには光の粒が無数に夜空に向かって上がっていった。



まったく舗装されていない、でこぼこの山道、雑草や野花が道の所々に生え、道を作るように木々が生い茂る。
 空は無数の木々により覆いつくされ昼なのか夜なのかも解らない薄暗い空間。
 その闇を歩く二頭の馬。
 先頭を歩く馬には鋼鉄の鎧を全身に装備したバルトが乗っていた。
 その後方を歩く馬にはアルとエマ、そして必要最低限の旅道具が二人分を乗せて歩いていた。
 三人は現在、麓の街を目指し山道を歩く。
 あの後、エマは気を失い仕方なく村人が居なくなった不気味な村で一晩過ごし、日が出てきた頃合を見計らって山道を降りて現在に至る。
 馬術の高さと総重量を合わせてエマはアルに寄り添うように眠りについていた。
 アルとて男子だ。流石にこの状況は色々と危ないが我慢をしている。緊張をして操縦を間違えなければいいが。
「ん……」
 馬の揺れによりエマは目を覚ます。
「あ、気がつきました?」
 一応自分を落ち着かせてエマへと笑顔で言う。
「……ここは?」
 寝ぼけ眼でエマは周囲を見回すが、木々しかなく理解はしにくい場所だ。
「村から……少し歩いた場所ですよ」
「そうですか……」
 そう言うとエマは正面へと向き直った。寄り添ったままなのは気にならないのだろうか。
「――君の村は」
 突然前を歩いていたバルトが正面を向いたまま言った。二人は視線が前へと行く。
「君の村の住民は全て魔物へとなっていた。そして君の力で全ての住民が消えた」
 淡々とした声、エマはその言葉に静かに俯く。
「……まあ、村人は救われたと思うがな」
 いつもどおりの兄の声だったが、何か優しい感じがする。
 エマはその言葉を聞いて、頭を上げると微笑する。
「君も一人で暮らすのは大変だろう。それでだ、君の魔術の才能を見込んで我々と行かないか?」
 その言葉にエマは驚く。
 前を歩くバルトがエマへと首だけで向く。
「君の力はまだ謎が多い。このままではまた長い眠りに陥るかもしれない。それを制御するにはやはり独学では無理だ」
 エマは少し考え込む。そう、ほんの少しだけ。
「……この魔術を使えなかったからこんな事件になったのです。もう、そんな思いは嫌です。……私に、魔術を教えてください」
 その目には一寸の迷いも無く、決意に満ちた蒼い瞳がそこにはあった。
 その決意を見て、再びバルトは前へと向き直る。
「…………!」
 アルは一瞬だがバルトの口元が動いた。それは笑ったように見えた。
 兄が人前で笑顔になるのは少なく。アルもあまり見たことが無い。
「……判った、まず協会へと戻るか」
 いつもどおりの淡々とした声。
「はい!」
 それに答えるエマの明るい声。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたね」
 エマは首だけをアルへと向けて右手を自分の胸元に当てる。
「私の名前はエルメントラウスです。エマと呼んでください」
 エマはアルへと笑顔で自己紹介をした。
 その笑顔に見とれながらもアルはしっかりと答える。
「僕の名前はアルフレード。皆はアルやアルフって言っています。そして前を歩いているのが僕の兄、バルトロメーウスです」
「よろしくです、アルさん、バルトロメーウスさん」
「よろしくお願いします、エマさん」
 二人は次第に笑みが毀れる。
 一時の安らぎに心を落ち着かせて、暗い樹海の中を三人と二頭は穏やかな日々を思い出すように進み続ける。



 ――――依頼報告書――
 執筆者――バルトロメーウス・ヴィ・シュラヴィレス――――

 依頼内容――村人である十四歳の少女が突然倒れた。その後、ありとあらゆる物を弾く効果を持つ神代魔術式の魔法陣が現れた。
 村長であるノルベルト氏は、聖職協会へと依頼を出す。
 後日判ったことだが魔術協会、錬金協会へも同様の依頼が出ていた。だが先に到着した魔術協会の魔導師及び魔術騎士は魔法陣の効果により両名死亡。

 依頼元の村へと協会を出発してから一週間で到着。ジュラルヴィ王国の北西の樹海地帯に存在する小さな村。人口は凡そ百人程度と思われるが確認できなかったため不明。
 先ほど述べた魔術協会の者により魔法陣が消える。
 その後、村人全ては魔眷人と出来損ないである眷族になっていることが判明。首謀者である魔人≠ヘ依頼内容にあった少女の双子の妹と判明。
 数に押され命の危機になったが、魔法陣が解けた魔人≠フ双子の姉である『エルメントラウス』の神代魔術式により周囲の敵を掃討。その時、不思議な光を作りながら村人は全て消失、魔人≠フ少女もその時に消滅。

 その後、村を調べたが生き残った村人は発見できず、村の唯一生き残りが『エルメントラウス』のみと確認。
 神代魔術式を持つ『エルメントラウス』を村に放置する訳に行かず、本人の同意の元に協会へと保護をする。私や弟である『アルフレード・ド・シュラヴィレス』と面識が強いため、一時的に生活することを上層部から許可を貰い、現在は我が住居にて休息中である。
『エルメントラウス』は魔術修行の希望を求めているので基本的な魔術を学ばせる講師なども要求する。

 村には魔眷人などの死体は一つ残らず消失したが、村自体が残ったままなので早急に隠滅部隊の出動を要求する。

 ――――以上、今回の依頼報告を終了する。





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