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 ここに、一つの古びた新聞紙がある。
 その新聞の名前は、『文々。新聞』と呼ばれており、鴉天狗の射命丸文が発行する新聞である。
 その文々。新聞は発刊した物を必ず一つ保存用に保管してあるバックナンバーの新聞が存在している。
 この新聞はその大量に存在しているバックナンバーの内の一つである。
 大昔に発行され、原本さえもう残っておらず、印刷されてこの世に存在するのは恐らくこれだけだろう。
 その何も変哲の無い新聞。幻想郷で起きた事件が綴られているだけである。
 しかし、その中に一つ、気になる記事があった。

 幻想郷に――た、英雄の最期の言葉。

 タイトルが一部文字削れて読めないが、そこにはこう書かれていた。
『――様々な人間、妖怪、幽霊などが住む幻想郷。そこでは様々な思いと考えから必ず事件が起きていた。妖怪の知恵比べで喧嘩や、人間同士の詐欺、そんな小さな事件が毎日起きている。記者である自分の記事のネタに困らないので大歓迎である。小さな事件は日常茶飯事であるが、それだけならば平和で何よりである。しかし、小さな事件など豆粒ほどに思える巨大な事件が幻想郷に何年かのペースで訪れる。人間、妖怪、幽霊、全てを巻き込むほど巨大な事件。幻想郷の存亡に関わる大きな事件。だが、その巨大な事件は全て解決されていた。だって、この新聞が皆様に今読まれていることが、その証明であるのですから。話は逸れましたが、その事件を解決する者が存在しました。それは妖怪よりも弱い存在である、一人の人間――博麗の巫女でした。その名は博麗霊夢という女性です。人間や妖怪、幽霊などを全て平等に扱い、天才的は感覚とセンスで数々の事件を解決してきました。しかし、所詮は彼女も人間、歳には勝てないようです。老衰し、昔のように空を飛ぶことも出来ないほど弱ってしまったようです。記者はその霊夢氏に取材を行ないました――――』



「と、そういう訳なので取材をさせてください」
「いきなり来て何を言っているのよ」
 目の前には布団から上半身を起こして、明らかに迷惑そうな顔をしている霊夢がこちらを睨んでいる。
「アンタたち妖怪と違って私はそんなに元気じゃないのよ」
 私が居る場所は、幻想郷を保つために存在している重要な建物、博麗神社の一室である。
 そして目の前で目くじらを立てて文句を言っているのが、今回の主役である博麗霊夢である。
 昔のような覇気は無く、顔には幾つかの皺が目立つ。それでも、老人とは思えないほどの美しい顔立ちと若々しさを持っていた。
「そこをなんとかお願いしますよ。貴女のような英雄の話はきっと幻想郷の人々や妖怪が興味を持っているに違いませんよ!」
 間違いない、と熱く語るが霊夢は冷たい視線しかこちらに向けない。
 このままでは話が進まない。明日発行する予定なのに。
 すると背後の襖をとんとん、と叩く音が聞こえる。視線を向けると襖がゆっくりと横へ移動し、そこには紅白の巫女装束に身を包んだ一人の幼い少女が立っていた。それは若かりし頃の霊夢によく似ていた。
「お婆ちゃん、別にいいじゃない、射命丸さんの取材を受けても」
 霊夢によく似た少女は手に持ったお盆を私へと差し出し「どうぞ」と勧めてくる。お盆の上には熱々の湯気を出す湯呑みが二つ。
「ありがとうございます」
 片方の湯呑みを受け取る、少し熱いかも。
「そういう面倒なことは嫌なのよ、他に当たりなさい、他に」
 孫と思われる少女へと霊夢は苦虫を噛み潰したような顔で文句を言って、渡された湯呑みを受け取り、熱々の茶を一口啜る。
「そんなことを言わずにね? 私もお婆ちゃんのお話を聞きたいし」
 孫はわくわくした楽しそうな目線で霊夢へと詰め寄る。
 昔から霊夢の知り合いである私にはこの二人のやりとりの理由がよく判る。霊夢は昔から自分で話をする人物では無かった。他人に自分が出会った過去の事件の話などこれっぽっちもしていないはずだ。恐らく神社に遊びに来た妖怪か誰かに祖母の武勇伝でも聞いたのだろう、だから孫は祖母の話をどうしても聞きたいのだ。
 孫の願いに、霊夢は困ったような顔をして悩んでいる。
 おっと、これは取材を申し込むチャンス。
「お願いしますよ。簡単な質問を答えていただくだけでいいので」
「うーん……」
「ねぇ、お婆ちゃん〜」
 あの融通が利かない紅白巫女でも、孫の前では弱いのだろうか。かなり迷っているようだ。
 孫から懇願される霊夢は諦めたように大きく溜息を吐く。
「……仕様が無いわね、少しだけよ」
 よし、落ちた。
 喜びが消えない内に取材用の和紙の束と筆を取り出す。
「ありがとうございます。では、早速取材を始めます」
「早くしてね、面倒だから」
 霊夢は眉を顰めながら私を見てくる。孫はその不機嫌そうな霊夢の横へと座る。
「貴女は今までに様々な事件を解決しましたね。私は紅霧異変より前の事件は詳しく判りませんが、まぁ他の事件もイマイチ判っていませんけどね。資料が少なすぎるんですよね……とにかく、貴女は様々な事件を解決して、この幻想郷は保たれています」
 取材を受けているはずの霊夢は欠伸をして暇そうにしている。前振りが長かったかな。本題に移るとしよう。
「それでは最初の質問です。貴女は数々の事件の中で、一番に印象に残っている出来事は、なんですか?」
「覚えてないわよ、そんな大昔のこと」
「いや……そこをなんとか思い出していただくのは……」
「だから覚えていないわよ。別にたいしたことも無いし、あまり印象に無いのだから仕様が無いじゃない」
 霊夢は眉を顰めて面倒くさい、と全身で表現しながら答える。
 とりあえずこれ以上頼んでも機嫌を損ねる訳にもいかないので、質問の答えを和紙に書く。
「……では、次の質問です」
「まだあるの?」
「お婆ちゃん、そうあからさまに嫌な顔しなくっても……」
 孫の言葉に霊夢が目を線になるほど細めて子供のように嫌がっている。
 昔から性格は変わらないなぁ。孫のお蔭である程度和らいでいるが、まだまだ元気な感じがする。
「その様々な事件で数々の元凶と思われる主謀者と戦ったはずです。相手も相当の実力のはずです。その強敵に勝つために何か策はありましたか?」
「無い」
 また一言で答えられてしまった。
「せめてもっと長い言葉で答えてくださいよ。記事にするこっちの身になってください」
「知らないわよ、そんなこと。それをなんとかするのがアンタでしょ」
「お婆ちゃん……」
 孫も呆れたように溜息を吐く。
 だけどこの回答もなんとなく判っていた。
 元々霊夢は天才なのである。抜群のセンスと感覚で無数の弾幕と数々の強敵を切り抜け、元凶を懲らしめてきた。そして霊夢の性格を考えると、本当に何も考えずに、ただ感じたことを体が反射的に動いていたのだろう。
 しかし、このままでは記事の内容が少なくなる……。
「では、次の質問です……」
「まだあるの?」
「こちらも記事の内容が薄くなるので物量で攻めることにしました」
 その後、事件に関してや、日常で気にしていることなど様々な質問を霊夢へと向けるが、全て「別に」「無い」など一言で答えを返された。霊夢は一言答えを返すだけでいいが、こちらは殆ど喋りっぱなしである。疲れる。
 このままでは質問内容を記事が埋めてしまうではないか。
 すっかり陽も傾き始め、黄昏時に近づく。
 孫もすっかり飽きてしまって、霊夢の横で寝てしまっている。その小さな頭を霊夢は優しく撫でる。
「……霊夢さん、お願いしますよ。長文で答えてくださいよ」
「嫌よ、歳を取った人間にそんな面倒なことを注文しないでよ。アンタたち妖怪とは違うのよ」
 早く帰れと言っているような物である。真面目に答えてくれればすぐにでも帰りますよ。
「……そういえば、アンタとも長い付き合いよね」
 霊夢が懐かしむようにこちらへと視線を向ける。
「そうですねぇ……何十年も前からの付き合いですね」
「アンタと出会わなかったらゴミが増えなくってよかったのに……」
「ゴミって私の新聞のことですか!?」
「それ以外何があるの?」
「ひ……酷い」
 文々。新聞は、皆様に読んでいただけるように日々精進しているのに……ゴミ扱いなんて。
だけどそんなことで諦めはしません。もっと皆様に愛される新聞にするのですから。
 霊夢が横で寝る孫を起こさないようにゆっくりと布団から立ち上がる。
「あれ? どちらへ?」
「ちょっと外の空気を吸いたいのよ、アンタの取材が長――あら……」
 立ち上がり一歩歩こうと足を出したら霊夢はよろめく。慌ててその倒れそうになる体を抱きかかえる。
 霊夢の体を抱きかかえた瞬間、その体躯はとても弱々しく、少しでも力を込めたら崩れ去りそうなほど小さい存在と感じ取れた。
 どんなに強気に振舞っていても、既に歳を取った人間。いつその存在が崩れ去っても不思議ではない。だけど、なんでこの人はこんなにも頑張れるのだろうか。
「……ありがとう。ちょっと眩暈がしただけよ」
 強気に笑うが、霊夢の顔には若干の弱気が感じ取られる。
 抱きかかえられた霊夢が自分から離れると、彼女は部屋の外へと向かう。少し日焼けした障子を開くと、外の美味しい空気が部屋の中へと吹き込む。
 黄昏時に近づいた陽が、年老いた霊夢を照らす。
 その光に映し出される霊夢の輪郭はとても細く、そのまま消えてしまいそうなほど儚い。
 その儚い姿を見ていると、取材をすることを躊躇ってしまう。
もう止めよう。こんな霊夢の姿を見ているだけで胸が苦しくなってくる。
「あの、霊夢さ――」
「アンタもそんなところに座ってないでこっちに来なさいよ」
 取材の終了を告げようとするが、霊夢が言葉を重ねるようにこちらへと向き、手招きをしている。
「あ……はい」
 縁側に座る霊夢へと近づく。
 霊夢はただまっすぐ、博麗神社の庭を見つめている。その目はここであった数々のことを懐かしむように。
「突っ立っていないで座りなさいよ」
 霊夢が自分の横をぽんぽんと叩く。私は言われるがまま座ることにした。
「……なんだかんだで、私の人生はあっという間に過ぎたわね」
「人間は寿命が短いですからね。もっと生きていたいですか?」
「まさか。何百年も生きていたくないわよ。このぐらいの人生が丁度いいのよ」
 ニカッと霊夢は笑う。
「霊夢さん……貴女の人生は、どうでしたか?」
「妖怪や幽霊が神社にやってきたりして、最初はお金が無く、貧乏で苦労はしたけど、楽しかったわよ」
 至極当然といった風に答える。迷いがまったくなく、本当に楽しい人生だと判る。
 霊夢は部屋の中で居眠りをしている孫へと視線を向ける。
「……でもあの子のお母さん、私の娘が生まれて、成人してからは人間の参拝客が増えて苦労はしなかったけど」
 彼女の娘が生まれて、私が彼女と出会った時と同じくらいの年齢になった時から人間の参拝客が増えていった。
 霊夢の娘は、母親とは違い積極的に人間の里を訪れ、知り合いを増やしていった。そのお蔭で神社の参拝客が増え、昔よりは裕福な生活が出来ている。
 娘さんは私の新聞、文々。新聞を愛読なされているから嬉しい限りだ。霊夢はまったく読んでくれないようだが。
「……私も、長く生きたわね」
 霊夢は黄昏に染まる遠い空を寂しそうに見つめる。
「魔理沙も咲夜も先に逝き、私だけがまだ生きている。そろそろ私の人生も終わりに近づいていることがよく判るわ」
 その言葉に、霊夢より先に亡くなった白黒の魔砲使いと、吸血鬼のメイド長、その二人の姿を思い出す。
 人間でありながら、霊夢と同じく妖怪に一番近い存在と思われる二人。人間の癖に妖怪以上の力を持っており、私も何度苦汁を舐めさせられたことか。
 それでも憎めない、記事のネタに困らない楽しい人間たちだった。
 その人間離れをした力で霊夢と共に数々の事件を解決したことがある英雄の二人である。
 でもその二人はもう居ない。
 人間とはこんなにも弱く儚い存在ということを再確認した。
 英雄の死に気丈でプライドが高い吸血鬼も一筋の涙を流し、横に座る紅白巫女も友人の死に涙を流した。
 そして霊夢も、自分の命がもう長くないと感じているようだ。
「そんな弱気な考えをするなんて、霊夢さんとは思えませんね」
「ふふ……そうかな」
 皮肉っぽく言うが、霊夢は苦笑いをするだけで、否定も肯定もしない。
「霊夢さん。心残りは何かありますか?」
「……そりゃー、あるわよ。孫の成人した時の姿が見られないぐらいかな」
 にへらにへらとあまり気にならないような答え方だ。
 本当は、もう何も思い残すことは無いのではないだろうか。
「でも全員揃って、宴会を最期にしたかったな……」
 そう告げると、霊夢は神社の庭にある今は散っている桜の木へと目をやる。
 その瞳は過去を思い出し、悲しむように桜を見つめている。
 彼女はまた宴会がしたいのだ。若い頃のように霊夢が知り合った友人知人と一緒に宴会をして騒ぎたいのだ。
 霊夢の言う「全員」の中には、魔理沙や咲夜も含んでいるのだろうか?
 恐らく霊夢の考える全員で宴会をするのはもう無理だろう。それは霊夢も判っているはず。だけどつい口に出てしまう。
「でも私の人生は最高だったわ、もう悔いは無いわよ」
 その笑顔はとても自然で、とても美しい表情だった。全てを認め、受け入れる。彼女は人生を満喫したのだ。山あり谷ありの人生だっただろう、だけど彼女はその刺激的な人生を最大限に楽しみ、それを全て心残りが無いように過ごしていた。
「アンタに出会ったお蔭で障子が何枚か破られたけど、それでもその出会いは間違いとは思わないわよ」
「え……そ、それは、ど……どうも……」
 突然のことに照れてしまう。真っ直ぐ視線を向けられるが恥ずかしさのあまりに目を逸らす。
「……れ、霊夢さん、最後の質問をしますがよろしいでしょうか?」
「いいわよ」
「幻想郷は、好きですか?」
 なんとなく帰ってくる答えは判った。それでも記者として、この質問をぶつける。
 霊夢はその質問に一瞬の躊躇も無く、若かりし頃の霊夢のように美しい笑顔で笑い、答えた。
「もちろん――――」
 それから一週間後、霊夢は死んだ。
 この取材はまだ記事にしていない。他の記事や編集作業などに手間取り、発刊する前に霊夢は死んでしまった。
 記事の内容を彼女に読んで欲しかったが、それはもう無理なことになってしまった。
 彼女が亡くなった日、博麗神社へと足を運んだ。
 孫は冷たく動かなくなった霊夢へとしがみつき、泣きつかれているのか目元が赤くなって寝ている。霊夢の娘は人間の里に降りて、葬儀の打ち合わせをしていると思われる。
 静かな表情で眠り続ける霊夢を見ると、その場には居られず足早に神社の庭へと出る。
 神社は昔と変わらず、ずっと同じ姿をし続けている。
 だが霊夢が居ない神社は不思議と別な場所に思えてきた。見慣れた神社の風景のはずなのに、人間一人居なくなっただけでここまで変わるものだろうか。
「文さん」
 背後から声を掛けられる。声のする方へと体を向けると、そこには孫と同じように紅白の巫女装束に身を包んだ霊夢の娘が立っていた。彼女は霊夢によく似てとても美しい顔立ち。そのため年齢が十歳以上若く見られる。本当にこの一族はなんでこんなに若く綺麗なのだろうか。
「今日は、わざわざお越しいただいてありがとうございます」
 霊夢の娘がふかぶかと頭を下げる。
「あ、いえ」
 条件反射的に頭を下げる。
「丁度今から文さんの自宅を訪ねようと思っていたのです」
「私の家ですか?」
 一体なんだろうか?
 すると霊夢の娘は片手に持った古びた額縁をこちらへと渡す。
 その古びた額縁を受け取る。それには一枚の写真が収められていた。
「これは……」
 その写真は、以前自分が撮った写真――昔この神社で宴会が行なわれた時、霊夢が「せっかく全員居るのだから集合写真撮りましょ。ほら写真係」と提案した時に撮影した写真。
 若かりし頃の霊夢や魔理沙、咲夜とその主の吸血鬼姉妹、魔法使いに兎、鬼と人妖、蓬莱人と幽霊、妖精と妖怪、閻魔様と死神、神様やその付き添いの人間と河童、人間や半妖、様々な事件で出会った霊夢の知人が全て揃っている年末の宴会。あまりにも人数が多すぎて一枚に収まるかと思ったが、意外にフレーム内で収まってよかった。
 その一枚の写真には生まれた時、生まれた場所、容姿や声がそれぞれ違う存在なのに、写真に写る者はそれぞれが楽しそうに、それぞれの笑顔で笑っていた。
「母さんが、大切に持っていた物の一つです」
 霊夢の娘が微笑む。
「母さんの遺言で、母さんが死んだ時、自分が大切にしている物をそれぞれの友人に返して欲しいと頼まれているのです。その写真が文さん宛ての品物です」
「これが……?」
「はい。母さんは友人からもらった物は保管していたり、飾っていたりと大切にしていたので……その写真もよく見せてもらいました」
 懐かしむように、霊夢の娘は自宅の縁側を見つめる。
「……では、私は他に届けないといけない品物がまだあるので、これで失礼します。お茶を出せずにすいません」
「あ、いえ、こちらこそこれを渡してもらってありがとうございます」
 霊夢の娘は軽くお辞儀をして、自宅へとこれから届ける物を探しに行ってします。
 神社の庭に残され、手元にある渡された額縁を見つめる。
 この写真を撮った時、何故霊夢がこんなことを提案したかはその時は判らなかった。だけど、最期に霊夢を見た後ではなんとなく判る。
 恐らく霊夢はこの幸せが続かないと思ったのだろう。物事には必ず終わりが訪れる。だから出来る限り、楽しい思い出を残したかったのだろう。だから全員揃っている写真を撮りたかったのだろう。まぁ、その後にも知り合った者も居るだろうが、その時はこれが全員集合の写真なのだ。
 霊夢は判っていたのだろう。もうこの後に全員集合の写真が撮れないことを。
 突然、頬を液体が流れ落ちる。流れ落ちた液体は頬から顎、そして顎から下にある額縁へと落ちる。
「うう……霊夢……さん……」
 今まで親しくしていた者の死。何百年も生きていても、やはりこれには慣れない。もしかしたら私は人間や、他の者に近づきすぎているのかもしれない。だからこんなにも胸が苦しいのか。
 昨日まで元気に笑っていたのに、数日前までは元気に文句を言っていたはずなのに、なんで別れはこんなに突然訪れるのだろうか。
 胸が苦しくなり、嗚咽が漏れる。涙が止め処無く流れ、視界がぼやける。
 もっとお喋りをしたかった。もっと一緒に笑っていたかった。
 だけど、それはもう出来ない。
 どんなに求めようと、どんなに望もうと、霊夢はもうこの世には居ない。
「私は……わた……は……」
 この場所で行なわれていた宴会が、走馬灯のように蘇る。
 皆それぞれがお酒を飲み、騒ぎ、楽しい瞬間を過ごした。
 誰かが隠し芸をやったり、お酒を飲んでべろべろに酔ったり泣いたり、弾幕ごっこで体を動かしたり、様々な方法でその宴会を楽しんだ。
『――ほら、アンタも取材だけじゃなくて宴会に混ざりなさいよ』
 そう言って、霊夢が私の手を引いて飲みの席に無理やり連れて行った。それは楽しいひと時で、いつもなら呼ばれても傍観者としていた私にも楽しいことを教えてくれた。
 その後、霊夢がその宴会跡をぶつくさと文句を言いながら掃除をするのを感謝の意を込めて手伝った。
 その時は私も気づいていなかったが、今なら判る。
 それはこの時間が続けばいいと思っていたことだ。
「ありがとう。霊夢さん……」
 自分には判らないと思う。
 恐らく、霊夢と知り合ったことで私の中で何かが変わっただろう。
 だけど自分自身の変化は気づきにくい物。
 でも周りから見れば変わったのかもしれない。それは多分悪い変化じゃないはず。だって霊夢が変えてくれたのだから悪い変化ではない。それが霊夢という、素晴らしい人間なのだから。
 ありがとう、霊夢さん。私、この写真を大切に持っていますね。これは霊夢さんの大切な思い出です。
 私は思います。生きている者が本当に死んだ時とは、他の者から忘れられた時だと思います。だから私は霊夢さんのことを忘れません。そして、今から品物が届けられる方々も、貴女のことを忘れないでしょう。
 霊夢さん……貴女は幻想郷にもっとも愛された存在ですから。



『――――最期まで気丈で、美しかった霊夢氏。彼女の葬式には二通りの葬式があった。神社で行なわれた人間の葬式。そして、それとは別の日に行なわれた霊夢の知人が集まっての葬式。共に数多くの幻想郷の者が訪れ、霊夢のために多くの涙が流れた。しめやかに葬式は終わったが、妖怪の葬式はその後があった。こんな悲しい雰囲気では霊夢も嫌だろう。誰が言ったかは判りませんが、その場に居合わせた者は全員同じことを考えていたようで、しめやかにだが小さな宴会が行なわれた。参加者は全員楽しそうに、それでも少し悲しいように宴会を行なった。霊夢氏の娘や孫もそれを望んでいるようです。そしてその場に居る者全員は笑顔で霊夢を見送った。記者の気のせいかもしれませんが、その時、霊夢氏が笑っていたような気がしました。幻想郷にもっとも愛された存在、彼女のお蔭で今の幻想郷が存在しているのです。彼女のような存在がまた現れるでしょうか。会えること信じて、記者はこの文々。新聞を発刊し続けます。』
 この記事が書かれた新聞が発行された日、いつもならすぐに捨てられている新聞が、その新聞が地面に落ちていたり、捨てられたりすることはまったく無かったそうです。
 この新聞が確認出来るのは現在ここにあるこれだけと思われる。
 しかし、もしかしたら、誰かが大切に保管しているかもしれない。
 この新聞に使われている写真は、年老いた霊夢が笑いながら娘と孫と一緒に写っている写真と、もう一枚。
 それは、一枚の写真に無理やり数多くの者が写った集合写真。

 ――霊夢さん。貴女のことは、この新聞を持っている者全員が覚えていますよ。

 射命丸文の編集机の上には、古びた額縁が置かれている。
 その額縁の中には、少し日焼けしてしまったが、まだまだどんな写真か判る。
 その写真には数多くの者が写っていた。中央には、一人の少女が立っている。紅白の巫女装束を身に纏い。とても可愛らしい少女。
 少女はとても満足そうな顔で笑っていた。

 ――ありがとう。




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